「ちょいワルオヤジ」に学んだピラティス、呼吸の基本/漫画家・松井雪子
漫画家として『家庭科のじかん』『マヨネーズ姫』などたくさんの作品を生み、芥川賞候補作家でもある松井雪子さん。15年ほど前にピラティスを始めて、今ではなんとインストラクターだそうです。そこで、ピラティスの魅力と超基礎を教えてもらいました(以下、松井さんの寄稿)。
【漫画家、ときどき作家。松井雪子、ピラティスはじめました】
こんにちは。ピラティスインストラクターのピヨ子こと、漫画家、ときどき作家の松井雪子です。
小学校の卒業文集に、将来は「カッパになりたい」と書きました。
カッパにはなれなかったのですが、漫画家になれました。
内気だし、声も小さい。家の中ではお布団がいちばん好き。
私を昔から知っているほとんどの人は、ピラティスのインストラクターをしていると聞くと、おどろきます。私自身もびっくり。でもきっかけは、ハッキリしてます。
4年前の冬のこと。その当時、標高1025メートルの山の家に住んでいた。
都会に住んでいるときに始めたピラティスができる環境がなく、一時中断していたころです。
仕事の打ち合わせで、たまに都会には出かけていたけれど、運動する余力はなかった。都会のきらびやかな空気を吸うだけで、クタクタ。物価は高いし、駅の改札に入ろうと磁気カードをかざしても、たいてい向こう側から出てくる人に負けてしまう。
「ピラティス、したいなぁ」
そう思いながら、尾っぽをまるめて山に帰るかんじでした。
そんなある日のこと。
いつも行っている近所のスーパーで一枚のチラシを見つけたのです。地元の情報が集まった掲示板のはじっこで、ひもにぶらさがっていた最後の一枚でした。
それはなんと。ピラティス教室のチラシ。
誰もいなかったけど、特売品を争奪するように、もぎ取った。
チラシにはこう書いてありました。
『あのちょいワルオヤジが八ヶ岳にやってきた! Hugo Pilates』
チラシのまんなかでほほえむのは、超イケメンのインストラクター、ヒューゴ先生。
プロフィールを見て、びびった。
アルゼンチン生まれ、体育大学卒業後に来日。フィットネス・インストラクターとして活動を開始後、研ぎすまされた身体を生かして、「ちょいワルオヤジ」で有名なファッション誌のモデルとして活躍。
すごすぎる…。
雪が溶ける春を待って、ヒューゴ先生のグループレッスンに参加しました。
二十畳ほどの公民館の和室に、20代から70代までの世代をこえた、たくさんの女性が集っていました。
女性たちに囲まれたヒューゴ先生が、にこにこしながらうなづいていました。みんなかわるがわる先生に何か話しかけてます。大好きな先生とお話しがしたくてたまらない、オトメゴコロ炸裂! そんなかんじです。そして先生は、だれよりもツヤツヤしています。
遠くに立っていた初参加の私を見つけると、ぱああっと明るい笑顔を向けて、背筋がまっすぐに伸びた美しい姿勢で近づいてきてくださいました。
先生のお姿を、女性たちがうっとりした目で追いかけた。
モテモテ先生、発見!
さてヒューゴ先生は、ちょいワルオヤジではなく、マジメで超性格がよい、ほがらか先生でした。
そしてピラティスのインストラクターを育成する日本では数少ない、国際マスタートレーナーでした。
山の家でひとりでもピラティスが正確にできるようなりたくて、はじめは人に教えるというよりは自分のために、ピラティスを学び始めました。
モテモテ先生だから、インストラクターになるつらい修行も続けられたのでは?
友人からそう指摘されたことがありました。
もしかしたら、そうかも。
美しいお花畑の山は、ルンルン登れます。
職場で甘い香りがするダンディ上司とイケメン同僚に囲まれていたら、仕事のつらさも半減しますよね。
内気な漫画家が、なぜピラティスを…
あのちょいワルオヤジが八ヶ岳にやってきた!
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