ミドリさんが、家事や子どものことや仕事に忙殺される日々を送っている中、
夫の浮気が発覚した。なんと彼女が性感染症になったのが発覚のきっかけだった。
「ある日、あまりにあそこが痒くて婦人科に行ったんです。そうしたらクラミジアだった。私には思い当たる節がないので、すぐに夫に言って病院に行ってもらいました。やはり夫からの感染だった。
浮気は明白ですよね。さあ、どういう言い訳をするんですかっていう目で見ていたら、妙に素直に『
会社の若い子と酔った勢いで……』と。『
その子からうつされたのね。クラミジアの治療をしなさいと言っておいたほうがいいわよ』と言いました。私の言い方がものすごく冷たかったようで、夫の目は怯えていましたね」
その後、ミドリさんは思考停止状態に陥ったという。ぼんやりと違和感を覚えていた
「妻だから、母だから」から生じる不利益が、形になって表れたような気がしたのだ。
「夫が私の顔色をうかがいながらも、ごく普通に生活しているのは、男だから浮気が許されると思っているのかな、とか、私の結婚生活は何だったんだろうとか。浮気したら離婚だからねって新婚当時は言っていたけど、あのころと今とでは私の夫への気持ちも変化している。
いろいろ考えたいことはあるのに思考が前に進まない。だから夫にも妙に事務的に接していたような気がします」
1週間ほどたったころ、夫が深夜の寝室で、「
本当にごめん」とぽつりと言った。酔った勢いというか、モテた気がして調子に乗ったとか、いろいろ言い訳をしていたが、その言葉もミドリさんの耳には入らなかった。
「
ただひとつ、私は今ここであなたに離婚をつきつけられないのが悔しい。出産後も働いていれば、私だけの判断で離婚よ、とバシッと斬れるのに」
ミドリさんは絶望的な気持ちでそう夫に告げたという。果たしてその言葉は夫の胸に届いたのだろうか。
「私にとって、夫の浮気はプライドを傷つけられることにつながったんですよね。そんなとき
ケツをまくって啖呵(たんか)を切れないのは、私に経済力がないから。それを如実(にょじつ)に知らされて、ますますプライドが傷つく。そんな負のループに入り込んでしまった。夫への愛情という問題ではなかったような気がします」
正直な女性である。いくら役割分担だから専業主婦になったとはいえ、「自分が稼いでいないこと」に対してどこか臆する気持ちをもっている女性は多い。どんなに頭に来ても、子どもを連れて別居するお金さえないのが現実なのだ。
「もちろん、だからといって夫に屈する必要はないと頭ではわかっているんですが……。あれからずっと夫とは表面的に波風が立ってはいないという状況。
浮気した夫に腹が立つというよりは、自分が思ったように行動できない苛立ちみたいなものがある。もちろんそれは子どものせいではないんですけど。先立つものはお金ってホントですね。ただただ、悔しいです」
すっきりしない気持ちを抱えて日常生活を送るミドリさん。自分でも気持ちの整理のつけようがないのだとため息をついた。
<文/亀山早苗>
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【亀山早苗】
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『
復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。