ウニとアワビの潮汁「いちご煮」の缶詰が美味しすぎた/カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」
【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」Vol.30 青森八戸市の「いちご煮」】
今回のテーマは「いちご煮」だ。
30年前のグルメ漫画なら「イチゴを煮たゲテモノなんぞよう食わんわ」という小ネタを挟んで3ページは稼げるところだが、さすがにもうイチゴを煮たものではないことぐらい知られている。
そもそも「いちご煮」とは青森八戸市とその周辺の名物で、ウニとアワビの吸い物だ。ゲテモノどころかダブルラグジュアリーである。
だが、八戸名物と言っても、いちご煮は香川で言う、うどんつゆのように蛇口をひねったら出てくるタイプの名物ではない気がする。
そもそも名物というのは、香川のうどんや東北の芋煮のように、県民の生活どころか血管に直に流れているとしか思えないほど日常的に食われているものと、「地元民もそんなに食ってない」ものにわかれる。
我が故郷の山口も名物に「フグ」が挙げられることが多いが、山口県民がサバ感覚でフグを食っているかというと滅多(めった)に食べない。何故なら山口でもフグは高級品だからだ。
よっていちご煮も「八戸はそこら辺の石をひっくり返せばウニとアワビがいるから安い」とことはなく、日常食にするには高すぎる代物だと思う。
実際いちご煮は、元は漁師が浜辺で食う豪快料理だったが、そのうち「上客への出し物」として使われるようになったという。つまり丁重にもてなしたいか媚(こ)びたい相手に出す「ごちそう」である。
もちろん、地元料理の実情というのは地元の人間にしかわからないので、他県の人間が語ると必ず怒られるようにできており、実際は水道をひねればいちご煮が出るし、暑い日は浴びてたりするのかもしれないが、一応「晴れの日に食べるもの」という位置づけだそうだ。
今回送られてきたのは「味の加久の屋」のいちご煮である。
どういう状態で売られているかというと「缶詰」で、中を出して温めればすぐにいちご煮が楽しめる。
実に手軽だが、値段は軽くない。一缶で千円以上はする。さすがウニとアワビ、汁物としてはかなり高い。
このいちご煮缶は、そのまま飲んでももちろん良いのだが、どうやら「炊き込みご飯」にするアレンジが有名なようだ。むしろいちご煮をもらったなら炊き込みご飯にしないともったいない、ぐらいの勢いだ。
確かに私は「これで良いものでも食え」と金を渡されたら脊髄(せきずい)反射で「焼肉」と言ってしまうし、ちょっと考えたとしても「カニ」止まりであり、とてもウニやアワビまで発想が至るような身分ではない。
つまりウニやアワビの良さがわかるところまで食った経験がないのだ。
よって、汁物のまま食べて、いちご煮の美味さが理解できるのか疑問なところがある。炊き込みご飯という「こちら側」に寄せて食べた方が絶対に良い。

名物とはいえ「ごちそう」のいちご煮
いちご煮缶は炊き込みご飯にするアレンジが有名なようだ
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