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妻子を捨てて「最高の女」と結ばれるはずが…「牛で全部ひっくり返った」

言語化できない不快感

 この時点で取材開始から3時間ほど経過しており、滝田さんは深酒によりかなり酩酊していた。酔っ払って混乱しているのか、何か別の理由を隠しているのか。そう思って、しつこく5度も6度も聞いてみたが、滝田さんは「だって……牛ですよ!?」「牛は無理です……」と、オウムのように繰り返すだけ。 「ミドリと息子を捨ててもいいと思えるほど聡子が好きだったし、愛はもちろん冷めていなかった。行きの新幹線では結婚の挨拶の練習もしました。でも……」  東京に戻った聡子さんは、結婚の話を父親に切り出さなかった滝田さんに激しく怒りをぶつけた。 「僕は牛のことを話しましたが、理解してくれるはずもありません。聡子とは、その後しばらくして別れました。あの時のことは今でも後悔していますが、でも、やはり無理でした」 牛のことを理解してくれるはずもなく… 滝田さんはついに最後まで「無理」以上に説明してはくれなかった。インタビューを終える間際に発された滝田さんの言葉が思い出される。 「聡子と出会ってからの7年が、牛で全部ひっくり返りました。聡子の実家と血縁関係になるのは無理です。聡子のルーツを完全否定した僕は、人間として最低です」  名状しがたい、すべてを台無しにする不快。理屈や倫理では組み伏せられない、極めて主観的な不快。“それ”と自分がつながっていると思うだけで、悪寒が走るほどの圧倒的な不快。心の深淵に鎮座する、どす黒い違和感。滝田さんは齢50に近づいてはじめて、自分の内にある“名前のない怪物”に気づいたのだろうか。  滝田さんは現在も独身。毎月、莫大な額の養育費を支払っている。 ※本連載が2019年11月に角川新書『ぼくたちの離婚』として書籍化!書籍にはウェブ版にないエピソードのほか、メンヘラ妻に苦しめれた男性2人の“地獄対談”も収録されています。男性13人の離婚のカタチから、2010年代の結婚が見えてくる――。 <文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会> ⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
稲田豊史
編集者/ライター。1974年生まれ。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。著書に『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)。「SPA!」「サイゾー」などで執筆。 【WEB】inadatoyoshi.com
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