玲子さんは大学を卒業して美術系の出版社に編集者として就職。花田さんは1年遅れて別の中堅出版社に就職し、情報誌の編集部に配属された。儀礼的に互いの就職先を知らせあってはいたが、特にやり取りもないまま7年もの歳月が過ぎる。
「あるライターさんが、玲子と僕の共通の知り合いだと判明したんです。当時付き合っていた同じ会社の彼女と別れたばかりだった僕は、同業者の情報交換会という名目で飲み会を主催し、そのライターさんを介して玲子も呼んでもらいました。いやあ、神々しさにさらなる磨きがかかっていましたよ……」
玲子さんが独り身だと知った花田さんは、再会をきっかけに玲子さんへ猛アタック。交際を経て、約2年後に結婚する。花田さん31歳、玲子さん32歳である。
「僕も玲子も蔵書の量がすごかったので、古いけど広めの2LDKのマンションを借り、家中を本棚で埋め尽くしました。あの頃は本当に幸せでしたね。玲子と、本と、映画。結婚にあたっては、自分たちの時間を大切にするために子供はつくらないと決めました。
共通の銀行口座も持たないし、互いの収入も知らない。個人主義的で高踏的なカップルであるという自意識に、少し酔っていたんです。90年代当時流行っていた“DINKs(Double Income No Kids)”というやつですね。玲子も、そういう夫婦のあり方に満足していました」