娘さんの親権は玲子さんが取った。花田さんは離れて暮らす娘さんにどういう感情を持っているのだろうか。
「
そもそも自分の遺伝子を残したのが良かったのか、悪かったのか、よくわからないんです。だって、この先の世の中なんてろくなもんじゃないだろうし、僕は娘がいてくれて嬉しいけど、彼女にとって僕の存在が嬉しいかどうかは、わからない。
たまに会うと、お金くれって言うんですよ。お金くれるなら会ってもいいよって(笑)。中学生にもなると、わりとドライです。そりゃ、そうですよね」
娘さんは中高一貫の女子校に通っており、習い事や塾を掛け持ちしているため、玲子さんからは毎月かなり高額の養育費請求があるという。

「
養育費は僕の存在証明みたいなものです。娘が30歳とか40歳になった時、僕がもう死んでいたとしても、お父さんは無責任に支払いを放棄したりはしなかったと認めてほしいだけ。そういう、いやらしい意識です」
いやらしくはないんじゃないですか、と反射的に言うしかなかった。
「彼女が成人するまでのお金を残してあげられれば、それでいいですよ。
僕が死ぬと生命保険が下りてあっちに毎月25万円振り込まれるから、今死んだほうがいいんじゃないかとも思うんですけどね(笑)。なんだったら出版業界だって、もう死んだも同然でしょ。野心的な本なんか作れないし、うちの会社はWEBの記事広告でもってるようなもの。紙が死んだ時点で、僕は死んだんです。今は過去の蓄積でしか仕事してませんから。いつ死んでもいい」
でもそれじゃあ娘さんが……と言いかけると、花田さんは遮って語気を荒げた。
「関係ないじゃん。
僕、親のことなんか一切愛してないのにさ」
今まで自分の親のことなどまったく話題にあげていなかった花田さんが、唐突に
「親」と口にした。
「
僕が自分の親を愛してないのに、娘に僕のこと愛せなんて言えないもんね」

『キル・ビル』DVD/Amazonより
最後にこんな質問をしてみた。「もし玲子さんが子供を欲しいと言わなかったら、離婚しませんでしたか?」。花田さんは用意していたかのように、こんな話をした。
「タランティーノの『キル・ビル』って映画観ました? あれ、どうして暗殺集団のボスであるビルが、元恋人のザ・ブライドを襲撃したか、わかります?
あれは、ザ・ブライドが別の男と結婚しようとしたから嫉妬したんじゃないんです。
あれほどカッコ良くてお気に入りの殺し屋だったスーパークールな自分の恋人が、すっごくつまんない市井の主婦になろうとしてたからですよ。ビルはそれが悲しくて、つらくて、見ていられなかった。僕はビルの気持ちが、とてもよくわかるんです」
※本連載が2019年11月に
角川新書『ぼくたちの離婚』として書籍化!書籍にはウェブ版にないエピソードのほか、メンヘラ妻に苦しめれた男性2人の“地獄対談”も収録されています。男性13人の離婚のカタチから、2010年代の結婚が見えてくる――。
<文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>
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