結婚の2年後、花田さんは編集プロダクションを起業、2人の社員を雇う。
「当時は出版業界の景気がめちゃくちゃ良かったので、いちばん稼いでる時だと、僕個人の取り分が月に7、80万はありましたね。ただ、僕は慎重でした。サラリーマンではないから、いつ仕事が激減するかもしれない。
ですから収入は上がっても生活レベルは変えず、古いマンションに住み続けました。変わったことと言えば、ミニ・クーパーの中古車を買ったくらい。
玲子と、本と、映画があって、仕事もちゃんとある。それ以上望むものなんて、なかったんですよ」

玲子さんは30代半ばで別の出版社に転職し、編集者として順調にキャリアを積んでいた。ところが結婚6年目の冬、夫婦の間に転機が訪れる。
「
玲子が、子供が欲しいなんて言いやがったんです」
花田さんは、たしかにそう言った。“言いやがった”と。強烈な恨み節だ。
「結婚する時、子供はいらないよねとはっきり確認したのに……。ままある話だとは思います。玲子も38歳になり、いざ出産限界年齢が近づくと、心境が変化したんでしょう」
花田さんがなぜ子供を欲しくないか、聞いてみた。
「
僕と玲子だけなら会社がつぶれようがどうなろうが、身ひとつで生きていけますが、子供がいたらそうはいかないでしょう。クライアントである出版社の担当編集のさじ加減ひとつで、来月から仕事がなくなったりする。僕は出版社にいたから、それがよくわかるんです」
しかし玲子さんの希望は強かった。
「
玲子に逆レイプされました。途中でゴムをつけようとしたら、ものすごい勢いで腰を……わかりますよね?」
翌年、娘さんが誕生する。
「でも、生まれてきた娘の顔を見たら、理屈ではなく愛情が湧いてきました。うんとかわいがりましたよ」