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「妻が、子供が欲しいと言いやがった」。“自立したおしゃれ夫婦”が泥沼離婚するまで

玲子にとってDINKsは親への反発


 しかし娘さんが成長するにつれ、玲子さんの言動にさらなる変化が訪れた。

「自分たちの将来に不安がたくさんある、みたいなこと言い出したんですよ。賃貸で家賃を払い続けてるけど、家を買ったほうがいいんじゃないか。あなたの会社はこの先大丈夫かな? 今からでも出版社勤めに戻れない? ねえ、私たちどうなるの? って」

※写真はイメージです 女性が子供を持ったことで母としての使命感や責任感が生じ、安定志向・保守的な考え方になっていくのは、珍しいことではない。しかし、花田さんは受け入れられなかった。

「今さら何を言ってるんだと脱力しましたね。会社がどうなるかなんて、そんなの僕にだってわかりませんよ。クライアントに聞いてくれって話で。終身雇用のサラリーマンが望みなら、そういう人と結婚すればよかったし、編プロ経営がリスキーだと思うなら、なぜ子供を作ろうなんて言い出したのか……

 夫婦仲は目に見えて悪くなっていった。そんななか、花田さんはあることに気づく。

玲子が僕と結婚したのは、実家への反発だったんです。彼女はちゃんとした血筋に生まれて厳格にしつけられて育ち、アカデミックな親の言う通り、世の中の規範どおりに生きてきた。大学生くらいでそこから逸脱したいと思い始め、少しずつお行儀の良くない“サブカル”も自分に取り入れはじめる。美術系出版社の編集職というのは、アカデミズムとサブカルの中間に位置するちょうどいい落としどころでした。

 玲子と再会した当時の僕は、サブカルの権化たるカルチャー誌を編集していました。……なんというか、結婚相手としては悪くないと踏んだんでしょう。旧来型の家族形態にとらわれないDINKsというライフスタイルも、親への無言の反発スタンスとしてはうってつけだったと思います」

あの頃の玲子はどこにもいない


 しかし玲子さんは、その反発を貫徹できなかった。

親や周囲といった“世間”のスタンダードに、見事に吸い込まれました。子供が欲しい、家を買いたい、夫には安定した職業についてほしい。それって、つまりそういうことでしょう。当時、玲子の姉も兄も、子供を作り、家を買っていましたから」

※写真はイメージです 話しながら、花田さんは徐々に悲しげな表情に変わっていく。

「玲子から『本当はもっといい条件の男と付き合えるはずだった』とも言われましたよ。愕然としましたね」

 人生観の決定的な違いに耐えられなくなった花田さんは、離婚を決意する。養育費を支払う覚悟はできていた。しかし、玲子さんは頑として首を縦に振らない。「あなたのことが好きとか嫌いとかいう問題じゃない。とにかく離婚だけは絶対に認めない」と繰り返した。

「なんのことはない、玲子は実家に出戻るという世間体の悪さ、親に対して顔向けできない羞恥心に耐えられないだけだったんです。バイト先で憧れたカッコいい玲子は、もうどこにもいない。なんてダサいんだろうと心の底から幻滅しました

 1年弱の泥仕合の末、離婚が成立。2007年のことだ。花田さん41歳、玲子さん42歳。以来、花田さんは再婚していない。現在交際している人はいるが、今のところ再婚の予定はないそうだ。

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『キル・ビル』のビルの気持ちがよくわかる

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