ジャッキーと結婚後、わずか5ヵ月でマリアの元に戻ったオナシス。彼はジャッキーとの再婚が思ったほどの名声やコネクションを得られないことや、彼女の浪費癖が原因で結婚を後悔していました。さらに、長男が飛行機事故で亡くなり、彼は精神的に叩きのめされていたのです。そんな彼を慰められたのはマリアだけ。オナシスはジャッキーとの離婚を準備し始めますが、1975年、急病にかかります。
札幌でコンサートに出演していたマリアはパリに戻り、オナシスを見舞いたがりましたが、ジャッキーが会わそうとしませんでした。ジャッキーのいない間にオナシスをこっそりと見舞ったマリアは、死に行く彼に
「あなたを愛している、これからもずっと愛し続ける」と囁いたそう(※2)。

『私は、マリア・カラス』より
オナシスの死の3年後、マリアは二度と舞台に立つこともなく失意のうちに自宅で亡くなりました。ジャッキーはオナシスの遺産の一部を受け取り、生涯で初めて経済的に自立して働き、1994年、病に倒れるまで人生を謳歌しました。
女性を男の“トロフィー”のように扱ったオナシス。マリアとジャッキーの類まれなる才能、美貌や富は、私たちが思い描く“女の幸せ”の代償として得られたものなのでしょうか――。2人の波乱万丈な人生を知れば知るほど、マリア・カラスの言葉が切なく響きます。
「マリアとして生きるにはカラスの名は重すぎる」(映画『私は、マリア・カラス』)
【参考】
※2:メディア・リサーチ・センターKK 『ジャッキー Oh!』キティ・ケリー著 岡本浜江訳
※2:音楽之友社『マリア・カラスという生きかた』アン・エドワーズ著 岸純信訳
(C)2017 – Elephant Doc – Petit Dragon – Unbeldi Productions – France 3 Cinema
<文/此花さくや>
⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】此花わか
ジェンダー・社会・文化を取材し、英語と日本語で発信するジャーナリスト。ヒュー・ジャックマンや山崎直子氏など、ハリウッドスターから宇宙飛行士まで様々な方面で活躍する人々のインタビューを手掛ける。X(旧twitter):
@sakuya_kono