「失敗したらね、そこからスタートなの。あんまり深く考えない。」
(『樹木希林 120の遺言』pp.44-45)
「絶対こうでなければいけないという鉄則はない。」
(『一切なりゆき』 pp.32-33)

『樹木希林 120の遺言』より。同書には若い頃の写真や家族写真も
ふつう、ミスや失敗をしたら、最初からやり直しと考えてしまいますよね。でも希林さんの場合は、失敗したところから新たなスタートが始まると考えるのだそう。「やり直している時間がない」という理由の他に、ミスそのものを活かすという発想からきているといいます。
家を建てたとき、間違って穴をあけてしまったりしたら、声をかけるよう建築家にお願いしたんだとか。
「
もしかしたら当初の設計よりも面白い物が出来るかも知れないでしょう? 直しちゃったら、ミスはミスのままだけど、それでまた別のことができたら、ミスが活かされたことになると思うんです。」
すごいのは、美人とはいえないご自分の顔までも「ミスして出て来ちゃった」と語っていること。女優として長いキャリアを重ねてこられたのも、そんな“不具合”を活かそうと工夫してきたからだといいます。
「それは依存症というものよ、あなた。」
(『一切なりゆき』 p.62)
ここまで、ありがたい言葉からレッスンを受けてきましたが、そこで100パーセント納得して安心しているようではダメ。晩年、老いや死について訊かれる機会の多かった希林さんですが、結局は「死んだことないからわからないのよ」というのが、正直な気持ちだったようです。
だから、最後は自分で考えるしかない。そうできるように自分を導く生き方を必死に模索していくしかない。それが一番のメッセージだったように思います。
こうして振り返ると、女優という枠を超えて、影響を与えてきた存在だったのだと再認識します。ふと立ち止まったとき、自分の心と対話させたくなる言葉の数々です。
<文/比嘉静六>