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「ゲレンデが溶けるほど恋をした」ーー鈴木涼美の連載小説vol.4

 鎌倉のミミちゃんの家に一泊だけして、ワタシたちは翌日からスキーキャンプに出かけた。鎌倉駅前に集合したのは50人ちょっとくらいの中学生と高校生で、子供みたいに小さい子もいれば、来年からはもう大人っていう感じの高校生の人もいて、来月から高校生になるワタシたち二人が本当にちょうど真ん中って感じだった。後で聞いたら、半分くらいはなんどもこのキャンプに参加してる常連で、だから高校生たちは結構つるんでいる感じで、特に男の子たちは、ヒーくんと呼ばれている人と、ヤスと呼ばれている人を中心にした目立つグループが、明らかに全体のトップに君臨して盛り上げている感じだった。  電車の席は、夜のホテルの部屋割り順になっていたからワタシとミミちゃんは、レイコというちょっと太った子とランっていう韓国人とのハーフで一個下のコンビと、シオリとユキコっていう二個下のコンビの近くだったけど、車窓から見えるのが民家じゃなくて畑とか山になるにつれて、なんとなく女子と男子が入り乱れていて、ワタシはヒーくんの隣になんとなく座っていて、ミミちゃんも近くににじり寄ってる状態になっていた。  もうその辺りから、ミミちゃんは3年間の女子校ライフからか、男の子に対して変に過剰なリアクションとか取るようになってるのが、ワタシ的には鼻につきまくりだった。普段そんなタイプじゃないのに、ワタシの腕なんて組んできたり、スキーがうまいっていうヒーくんたちのグループに、不用意にかっこいいを連発したりで不自然極まりなくて、だからそのあとに起きた諸々の事件については、ある意味ちょっとこの時からワタシ的には予想がついてたっていうか、ミミちゃんが自然に男の子とうまくいくのには時間がかかりそうだなとは思ってた。  キャンプ自体は超楽しくて、女の子部屋のいざこざとか、夜に男の子たちがこっそり遊びにきたりとか、ヒーくんたちのグループがどこからかお酒買ってきてタバコとそれ持ってホテルから抜け出して一部の女の子グループとヒーくんグループで宴会したりとか、やっぱり幼稚園時代とは違う中高生ならではの、子供と大人のちょうど間の、スリルはたくさんあった。  考えてみれば、幼稚園時代のキャンプだって、あの子がかっこいいとかあの子とあの子が仲がいいみたいなのはあったわけだから、男の子と女の子が混合で集まった時に起きる化学反応なんてもしかしたら物心ついてからおばさんになるまで何にも変わんないのかもしれないけど、それでもやっぱり、両思いになったところでその後に何も起きない幼稚園児と、付き合うとかキスとかエッチとか、その後にいろいろある中高生だと、そこへの入れ込み具合は全然違う。 鈴木涼美連載小説 箱入り娘第4回 だから、キャンプ最終日の夜が告白大会みたいになるのはある意味当たり前で、まだ子供の要素が強いシオリとかユキコがそこには登場しないのは当たり前で、レイコとかランもまだ幼稚園児のかっこいいから抜け出せてない感じで、そこに登場するのはワタシとかミミちゃんから上の女の子たちだけで、その中でほとんど唯一常連じゃなかったワタシとミミちゃんが割と注目株になるのも当たり前っちゃ当たり前だった。最初からヤスを狙うって言ってたミミちゃんの気持ちはなんとなくワタシにはわかって、ヒーくんに比べるとヤスはちょっと顔が地味で声も小さかったのと、最初から露骨にワタシにアピールしてきてたヒーくんを外したんだと思う。案の定、ワタシは最終日にヒーくんに付き合わない?って言われて、実はワタシもほんとはちょっとヤスの方が好きだったんだけど、ヒーくんが割とみんなにワタシ狙いだって言っていたから、これはもうヤスはワタシに手を出せないだろうと思って、ワタシは次の日の、帰りの電車の中でみんなの前でヒーくんにOKを出した。  ヒーくんは、目立ってるけど実はモテないタイプだったと思う。それで、ワタシがOKした瞬間に「よっしゃー」とか言って無邪気で、だからワタシもその時はわりと本気で、付き合ってもいいかなと思ったわけ。問題は、キャンプが終わってから学校が始まるまで結構まだ時間があって、学校生活に忙しくなる前に、まだキャンプ仲間とつるんでる時間が結構あって、みんなで遊ぼう的なイベントも結構あったことで、結局ワタシはヤスにも電話で告白された。ワタシ的に、ヒーくんと一回デートしたものの盛り上がりに欠けたし、そもそもヤスのほうが好みだったし、その告白にはついその場でもうオッケーってしちゃって、事後的にヒーくんに別れる旨を伝えて、ミミちゃんにも謝らなきゃいけなかった  女の友情なんて、男が挟まれば結構無残にこじれるのは知っていたけど、正直、幼稚園時代からの仲だっていうのと、ミミちゃんのヤス狙いっていうのがどうもそこまで本気じゃないような気がしてたのとで、ワタシは結構思い悩まずにミミちゃんに電話した。
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ワタシはちょっと心が折れそうにはなった
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