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「ゲレンデが溶けるほど恋をした」ーー鈴木涼美の連載小説vol.4

「どうしたのー、ヒーくんとどう?」  みたいな感じで会話を始められて、ワタシはちょっと心が折れそうにはなったけど、 「いや、ヒーくんと別れることにしたんだよ」ととりあえず答えた。  ミミちゃんはえーとか言いつつも、「ワタシもヤスとはたまに電話するだけで付き合うみたいな感じにはなってないから、彼氏いない同士になったね」的なことを言ってきた。  こうなったら、もう会話を急がないと、気まずいことになると思って、ワタシは正直に、ワタシもヤスが好きなこと、ヤスに告白されたこと、付き合うことになったことをなるべく矢つぎ早に電話口で伝えた。ミミちゃんは最初はちょっと言葉を失ってた。で、ちょっとずつ普通に二人で話した。 「エミリがヤス好きだったのは意外。ヒーくんとずっといい感じだったし」 「ヒーくんが露骨だったじゃん、ヤスも言ってたけど、あの場ではそういう感じにするしかなかったんだよね」 「ヤス、かっこいいよね」 「うん」 「あーあ、敗者の気分」 「ごめん、ミミちゃんがヤス好きって言ってたのは知ってたから悩みはしたよ」 「うーん、ヒーくんと慰め合おうかな」 「ヒーくんは怒ってるかもね。ヤスと仲悪くなったら申し訳ないな」 「でもヒーくんはもうこれで中高スキーは卒業の年だし、浪人生やるみたいだし、そうじゃなくてもちょっと疎遠になるかもだよ」 「そう思うことにするよ」 「ワタシはねー、うーん、ヤス好きだったから辛いけど、エミリのが大事だわ」 「絶交されたら悲しいなと思ってたんだ」 「ヤスよりエミリとの友情をとるよ! 三人でも遊ぼう!」 「ありがと」  結局、ヤスとの最初のデートは二人でするけど、その次の週に、ヤスと、あとヤスと仲良しで同い年のハルキも誘って、四人でカラオケ行こうなんて話をしてその日は電話を切った。ミミちゃんの「友情をとるわ」は、ちょっとサムイし、なんというか変に恩着せがましい気もしたけど、でもワタシは嬉しかった。正直、鎌倉駅であんまり大きいリアクションを取られた時は、もう遠い人っていう感じがしたけど、キャンプでは相変わらず二人で話すのは面白かったし、男の子がいるとなんか空回るところとかも含めて、友達でいたいなと思わせる自由さはあった。    ミミちゃんが男の子と自然に話さないのは、ロンドンで、あるいは中学校で、女の子たちばっかりの環境にいたことで、男の子と女の子は全く別の生き物だって思うようになったからじゃないかと思った。妙に意識したり、過剰に反応したり、変に毛嫌ったり、あるいは逆にすっごくぶりっ子になったり、そういう子は、うちの地元にもいるけど、男兄弟がいるとかずっと共学に通っているとかだったら、そういうのってだいぶ少ない。ヤスのことだって、狙うなんて言っておいて、本当はテレビに出てる歌手を好きだとか言ってるメンタリティの方が近かったんじゃないかと思った。だからワタシも、それほど心苦しくなくヤスと付き合えたわけだけど。  考えてみれば普通にパパが家にいて、むしろ他のおうちより長い時間家にいて、いとこの男の子なんかとよく遊んでいたミミちゃんよりも、パパがいたりいなかったりで、途中から全然いなくなって、ママの恋人はよそよそしく挨拶するだけ、親戚づきあいだって大してないワタシのほうが、よっぽど男の子に大して倒錯した気持ちを持っていそうなものだけど、そうならないのが変だな、とも思う。だからワタシは家庭環境でものを考えようとするような人はあんまり信用しない。  そんな話をミミちゃんにしたら、「私は確かに男の子に壁を作っちゃうけど、ヒーくんと二週間弱で別れてヒーくんの親友と付き合いだして、そんなことを自然にできちゃうのってやっぱりエミリも変なんだよ多分」と言っていた。高校は小中学校に比べるとずっと近くなるし、今ではお互いママの同伴なくても会いに行けるようになったわけだし、お互いの今後がキャッチアップできる程度には、友達でいようねってワタシは勝手に空に誓った。(続く) <文/鈴木涼美 撮影/石垣星児 挿絵/山市彩> 【鈴木涼美(すずき・すずみ)】 83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。09年、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。著書に『「AV女優」の社会学』、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』、『おじさんメモリアル』など
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