「いい!
男の前では、きちんと女らしくするだけで大事にされる度合いが変わるの! あなた、メイク下手クソすぎるのよ。だいたいチーク、全然塗ってないじゃない」
ブツブツと文句を言いながら、梓さんの顔にメイクを施していくママ。気づけば他のスタッフも周りに集まり、梓さんの顔をあーでもないこーでもないとメイクアップしていきます。ただし、横で見ている友達に聞くと「
毒舌を被せながらのメイクレッスンは、決して楽しそうにはみえなかった」とのこと。
女性は脇役であるはずのゲイバーで、入店早々に恋愛相談をして、ズバッと一刀両断されたら「漠然と励ましてほしかっただけ」なんてちょっと身勝手な気もしますが…。何にせよ初めてのゲイバーでしっかり洗礼を受ける梓さん。
されるがままで約10分後。確かにチークがぽってりと乗った、可愛らしい梓さんが出来上がります。「はい。
あんた、もう少し彼がどう思ってるか~とかだけじゃなくて、自分の価値を上げる努力もしなきゃだめよ」そう言い放つと、IKKO風オネエはスタスタと別のテーブルへと去っていきました。
本日のお会計は8000円。バーで一杯飲んで、占いもしてもらったというなら、金額としては妥当な範囲です。しかし、鑑定といってもただ思うがままに、
毒舌なアドバイスを撒き散らされ、あげく顔面批判つきのメイクレッスンをされただけ。梓さんは肩を落としながら店を後にしたそうです。いやあなた、毒舌を期待して来たんじゃなかったの…?
「
オネエに対する偏ったイメージで、弱音を吐くと厳しくも最後は温かく励ましてくれると勝手に思ってたわ。あと、あの人のあれ、占いだったのかな…」
その場から離れたことで、やりきれない気持ちがブワッと湧き上がってきた梓さん。痛いゲイバーデビューを果たした結果「
知らない人にやみくもに悩みを相談するのはやめる」という教訓を得たそうで、それはそれで1つ成長だった気はします。
そんな彼女は現在、当時悩んでいた彼と結婚し、今は幸せな結婚生活を送っています。ママのアドバイスは多少なりとも役に立った…のかなと思うものの、それ以来ゲイタウンには足を踏み入れてはいないそうです。
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私の◯◯デビュー失敗―
<文/しおえり真生 イラスト/田丸こーじ>