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医師が自分の精子で49人の父親に。不妊治療スキャンダルはなぜ頻発する?

ただ「妊娠させて出産させる」数字が出したかった

 不妊治療を受けたいと思っている夫婦が重要視するのは「妊娠率」です。自由診療で一回の治療費が高いこともあり、妊娠率が高いクリニックに駆け込むのは当然です。 不妊治療 今回事件が表面化したオランダ人のカールバート医師は、自らを「不妊治療界のパイオニア」と呼んでおり、ただ「妊娠させて出産させる」数字のみを目的にして評判を高めていました。  倫理的な問題や、生まれてくる子どもたちの将来に起こり得る問題などについては、全く意識がなかったのでしょう。  2014年には日本人実業家の男性が、少なくともタイ、インドで19人の子供を代理母に産ませていたことが発覚して話題になりました。このケースでは正式にこの男性の親権が裁判で認められましたが、関係者には「毎年10~15人の子供が欲しい」「100~1000人の子供をもうける計画だ」と語っていたといいます。  不妊治療医による事件とは背景が異なりますが、男性にとっては経済的な余裕や、不妊治療を自由にコントロールできる立場にあれば、自分の遺伝子を持った子孫を数多く残すことが可能なのです。

不妊治療の現場はブラックボックス

 日本でも不妊治療を行う医療機関が増加し、成功率をめぐっての競争が激しくなっていますが、不妊治療を受けて一度受精卵が作成されてしまったら、患者側はどうすることもできません。性交渉を伴っていない場合、「これは間違いなく自分たちの配偶子だ」という証拠はないのです。  現場はブラックボックスであるため、クリニックを信頼して全てを委ねざるを得ません。万が一、同意のない人の精子を使われたとしても、それが特徴として現れるまでには最低でも生まれてから数年、場合によっては十数年もの時間を要するのです。 体外受精 現在は受精卵の取り違えなどの対策としては、タブルチェックの体制強化の指導が行われており、実施責任者の監督下に、医師・看護師・いわゆる胚培養士※のいずれかの職種の職員2名以上で行っています。しかし、実際の医療行為の現場は患者からは見えないところ行われているため、こういった事件が明るみに出てしまうと、不安を感じる人も出てくるではないでしょうか。 ※胚培養士とは、体外に取り出した卵子や精子、受精した胚を取り扱う技術者のこと。

本当に自分たちの子どもなのか、生まれる疑惑

 先月、芸能人の息子だと豪語して飲食を繰り返し、金銭トラブルを抱えていた男性が、DNA鑑定によって全く血が繋がっていなかったことが判明した事件がありました。事件が早急に解決した背景には、DNA鑑定が短時間で安価で出来るようになったことがあります。  日本は、血縁をとても重視する傾向にあります。『本当は怖い不妊治療』(SB新書)でも述べましたが、実際に不妊治療を行なった夫婦が間違いを疑い、本当に自分たちの子どもかどうか、DNA鑑定を依頼するケースも増えているといいます。  不妊治療ブームともいえる現在、今回のオランダの事件が対岸の火事であることを願うばかりです。 <取材・文/ジャーナリスト・草薙厚子> ⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
草薙厚子
ジャーナリスト。元法務省東京少年鑑別所法務教官。著書に『ドキュメント 発達障害と少年犯罪 』『本当は怖い不妊治療』『となりの少年少女A』など多数
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