「家庭のことはオレがやるから、きみは仕事に没頭して」
「『きみは仕事が本当に好きみたいだし、給料だっていい。僕は今は仕事より子どもと一緒にいることを選択したい。家事も嫌いじゃないし。生活は苦しくなるかもしれないけど、やってみないか』と。
会社にいろいろ相談したら理解があって、出社は2週間に1度でいい、代わりに家で仕事をするのはどうかと提案されたそうです。給料は下がるけど、それでも辞めてしまうよりはずっといい、と」
そのとき、ナツミさんの心が揺れた。夫を過保護でうるさいと思っていたし、実際にそういう側面があるとはいえ、
彼は本当に家庭を大事にしたいのだなと伝わってきたからだ。
「私はいっそ離婚しようかとさえ思っていた。私がそう言ったら、夫は『きみが僕をうっとうしいと思っているのはわかっていた。だけど僕としては、きみとの家庭を本気で考えているからこその対応だった。
もうめんどうなことは言わない。家庭のことはオレができる限りやるから、きみは仕事に没頭していいよ』って。ありがたかったですね。正直言って家事は向いてないんですよ、私」
それから2年、夫はほぼ専業主夫としてがんばってくれた。そして1年前には会社に復帰。5歳になった子どもはふたりで協力しながら育てている。
「つきあっている期間が短かった上、婚姻届を出すと同時に子どもを授かって、夫婦としての実感がないまま親にもなった。落ち着いてふたりのことを考える間もなかったんですよね。だから夫はなんとか形を整えたくて私を縛ろうとしたし、私は自由になりたくてもがいていた。でも
夫が主夫になってくれた期間があったからこそ、お互いに自分のことも相手のことも思いやれる時間ができたのかもしれません」
今はふたりとも自分の考えを素直に相手に伝えられるようになったという。
「
あのとき、夫婦でいることをさっさとあきらめなくてよかった。あきらめようとした私をきちんと引き戻してくれた夫に感謝しています」
別れるのはいつでもできる。もう一歩踏み込んで、自分の生活を変えた夫の思い切りのよさが夫婦の関係を劇的に変化させたのではないだろうか。
―
夫婦再生物語―
<文/亀山早苗>
⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】