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夫が発達障害かも…と悩む妻。すれ違いすぎる会話に涙が止まらない

 彼が自分のペースを守ることをとても大切にしているのだと理解したイクミさんは、彼のペースを乱しかねない行動はとにかく避ける必要があると考えました。光に敏感な彼に合わせて、家の中の照明はいつも薄明るい程度に抑え、常にカーテンは締め切り。音にも敏感なので、テレビの音量や、ドアの開け締めをする音なども抑え、極力物音を立てないように。これらも、彼のペースを乱さないために必要なことでした。 ドアの音 夫婦とはいえ元は他人なのだから、一緒に暮らしていくにはお互いのすり合わせが必要なのだ。私が彼のペースを守る習慣を身に着ければ、彼が気持ちよく暮らすことができる。そうするうちにきっと彼は新しい環境にも慣れて、またお互い居心地良くいられるはず――そう思うと、今している我慢や、彼に合わせる生活は、イクミさんにとって乗り越えるべき試練のように感じられたのです。

「泣いていたら抱きしめて」が通じない苦しさ

 とはいえ、彼の顔色を伺いながら暮らす生活は、イクミさんにとって容易なものではありませんでした。  彼が新しい環境に慣れるまで、私は私で好きなことをして過ごそう。そう前向きに解釈できる日もあれば、何のために結婚したんだろう? この生活はなんなんだろう? という疑問が頭を離れず、涙が止まらない日もありました。  泣いているときは悲しいときだから、優しく抱きしめてほしい。そう伝えると、「なぜ抱きしめる必要が?」と彼は眉を寄せます。 ――抱きしめてもらったら、安心できるから。 「僕はそう思ったことがないのでわからない泣く妻――私は、悲しいときに抱きしめてもらったら安心できるから、抱きしめてほしいと思ったんだよ。 「抱きしめることと安心できることがどう関係するのかわからない」  こんなふうに、説明しなくても共有できるものと思っていた感情について、イクミさんは、それを感じる経緯や理由について細かく説明する場面が増えました。感情の言語化はうまくできるときとそうでないときがあり、なかなか伝わらないときには、言い方を変えたり、たとえ話をしたりして、長い時間を要することがありました。そしてそれを彼も理解しようと、時間をかけて話を聞いたり、イクミさんの言うことを書き留めたりしてくれることもありました。それでも、お互いが心から納得しあえることはほとんどありませんでした。 「今度からでいいから、泣いてるときは、どうしたのって声をかけてくれたら嬉しいな」  イクミさんが言うと、彼は困ったようにこう言います。 「理由を聞いても僕には解決できないと思うから、声をかける意味がない」  ただ、イクミさんは解決を求めて泣いているわけではありませんでした。声をかけてもらって、気持ちに寄り添ってほしいだけなのですが、彼はそういった感情を抱いたことがないからわからない。わからないことはできない。だから何もしないだけで、決して意地悪で、泣いている私を放置しているわけではない。そう頭ではわかっていても、イクミさんは悲しくて寂しくてたまらなくなってしまうことがありました。
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「イクミを家族と思ったことない」
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