宇垣美里「心を殺しながら、生き急ぐようにここまで来た」/映画『ブルーアワーにぶっ飛ばす』
元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
そんな宇垣さんが現在公開中の映画『ブルーアワーにぶっ飛ばす』についての思いを綴ります。
●作品あらすじ: 30歳でCMディレクターをしている砂田(夏帆)は、東京で日々仕事に明け暮れながらも、優しい夫もいて満ち足りた日々を送っている…ように一見みえますが、口をひらけば毒づいてばかり、酒を飲めば酔っ払って絶叫したりと、荒みきっています。
ある日、病気の祖母を見舞うため、友達の清浦(シム・ウンギョン)と大嫌いな地元・茨城へ帰ることに。地元の家族には、東京ノリの理論武装も通用せず。
やがて自分自身の化けの皮が剥がれ出した砂田でしたが、一日の始まりと終わりの間に一瞬だけおとずれる“ブルーアワー”が終わる時、清浦との別れが迫っていた…。
数々の映画に出演し多くの賞を受賞している夏帆と、『怪しい彼女』『サニー 永遠の仲間たち』『新聞記者』で日本でもファンの多いシム・ウンギョンという日韓の実力派女優が共演した話題作を宇垣美里さんはどう見たのでしょうか?
いつからだろう、実家に帰らなくなったのは。「ふるさとは遠きにありて思ふもの/そして悲しくうたふもの」という詩を知ったとき、泣いてしまいそうになるほど納得がいった。嫌いなわけじゃない。ただ、帰るたびこれでもかというほど時の流れを感じさせられるのが切なくて、否が応でも自分の過去や現在と向き合わざるをえなくなるのが怖くて、変えることのできない自分の原点に蓋(ふた)をした。
東京はもう6年目。目まぐるしく過ぎていく毎日に落ち着く暇もなく、いつしか立ち止まるのが怖くて、心を殺しながら、生き急ぐようにここまで来た気がする。だからだろう、主人公・砂田の、現状も自分自身も大嫌いだと訴えるような目に自分を見た。“ディープ茨城マジ死にたい”と地元に絶望する姿は、見ているだけでこっちの精神が抉(えぐ)られるようで、ちょっと死にたくなった。たまらず愛想笑いをうかべる砂田にスナックのママは「その顔ブスだかんね。癖になるから気をつけな」と忠告する。ぐさり。うるせえ。そんな私にしたのは誰だよ。私か。
この世界は基本的にオワコンで、所詮自分の人生なんて平凡なもので、先が見えて辛い。地元は相変わらずダサくて、美化できないのが寂しい。でもさあ、ダサくても泥だらけでも、私たち生きていかなきゃいけないんだよ。車中で叫ぶ砂田を見ていると、のみ込み切れない胸のつかえを認めて、生きていける気がした。最後、ぼんやりとした存在感だった砂田の夫の一言に思わず涙がこぼれた。そんな自分のダサさや狡さすらわかって肯定してくれる人がいたら、それ以上に幸せなことなんて、ない。
『ブルーアワーにぶっ飛ばす』’19年/日本/1時間32分 監督/箱田優子 出演/夏帆、シム・ウンギョンほか 配給/ビターズ・エンド
(C)2019「ブルーアワーにぶっ飛ばす」製作委員会
<文/宇垣美里>
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ダサくても変えられない自分の原点=“地元”への複雑な感情にぐさり!
宇垣美里
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。