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不倫する夫婦の物語「夫は浮気することで私をより愛してくれている」

アメリカ的価値観が人生を生きづらくする

――ピューリタン的な善悪の価値観はアメリカから来たものだと思いますか?
『冬時間のパリ』より

『冬時間のパリ』より

アサイヤス監督「そうだと思います。いまや何でもかんでもグローバリゼーションという名の下にアメリカからやってきますよ(笑)。何にでも白黒つけたがるアメリカ主義はヨーロッパやアジアの文化とは相容れないものがあると思う。  この作品で描きたかったのは、アメリカ主義、つまり、新しい時代がやってきて、私たちはその変化にどうやって対応しようとしているかということ。新しい価値観のなかには受け入れがたいものもある。しかし、現代においてアメリカは巨大な力をもっていて、アメリカ主義は避けられません。避けられぬ変化に対し、人はどのように立ち向かうのか。私たちが今直面している新しい世界と古い世界の葛藤を、デジタル時代における出版業界に反映させたんです」

どんなに愛し合った夫婦でも必ず変わってしまう

――なるほど。本作に登場する夫婦はお互いの不倫を知っていながらも、お互いを受け入れようとしています。そこに、結婚の価値観における変化が見られるように思います。2018年に出版された社会学者のジャニーヌ・モシュ=ラヴォによる著書『フランスの性生活』によると、今、フランスでは性革命が起こっていて、セックスレスの夫婦生活のほうが不倫よりも不道徳だという価値観が台頭しているそうですね。要は、不倫よりもセックスレスのほうがフランス人には受け入れがたいと。
『冬時間のパリ』より

『冬時間のパリ』より

アサイヤス監督「その本についても性革命についても知らなかったけど、よいことですね!(笑)“愛”という言葉を私たちはみな使いますが、愛の定義は人それぞれ違う。愛は結婚だと思う人もいれば、愛はセックスだと思う人もいるし、愛は優しさだと思う人もいれば愛は貞節だと思う人もいる。  それに、愛し合って結婚したと思っていても、愛し合った2人は必ず変わります。カップルの関係性は変わり続けていくもの。だって恋に落ちた瞬間は永遠ではないですよね。結婚し子供ができてライフスタイルは変わり、自分も進化する。だから、変わってしまうことは必然なんです。でも、変わってしまったパートナーを受け入れられなかったときに、結婚は破綻します。  ただ、70年代は実際に性革命が吹き荒れていたので、愛はある意味何でもありで、個人が自分なりの愛の形を見つけていました。それが道徳的によいのか悪いのかはわからないけれども、現代では愛や夫婦の形が保守的に定義されすぎていると思う。セクシュアリティの自由は70年代と比べて退行してしまったようにも思えますね」
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現代社会に挑戦する結婚観
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