――本作はまさに「夫婦は貞節であるべき」、「夫婦はすべてを話し合わなければいけない」といったいわゆるポリティカル・コレクトネス(政治的・社会的に公平な言葉を使う概念)的な結婚観に真っ向から対抗しています。

『冬時間のパリ』より
アサイヤス監督「ポリティカル・コレクトネスは欺瞞的で、退屈極まりないと思っていますね(笑)。というのも、アートにかかわる者は、社会に挑戦し続けなければいけない存在だと思っています。アーティストだからこそ、社会に対して声を上げる責任がある。政治的・社会的に誰も傷つけないような言葉を選ぶことを考えて創作すると、その作品は声を失ってしまう。それはアーティストとしての責任から逃げているように思います」
――この映画で描かれているデジタル時代に対する葛藤は、監督自身も感じたことはありますか?
アサイヤス監督「このデジタル時代の問題は中毒性だと思います。デジタルでは素晴らしいこともできます。ただ、私たちは自分に何が必要か、何が必要でないかをきちんと考えて選んでいかないと、ネットにあふれる膨大な情報量やSNSに振り回され、支配されてしまう。
劇中、編集者や作家が議論するように、デジタルには善い面も悪い面もあります。この映画では登場人物が現代社会や結婚について様々な議論をしますが、明確な結論を出してはいません。
なぜなら、人から押し付けられた結論は自分の血肉とならないから。観客の皆さんにはこの映画と積極的に会話をして自分なりの考えを引き出してもらえたら嬉しいです」
©CG CINEMA / ARTE FRANCE CINEMA / VORTEX SUTRA / PLAYTIME
<文/此花わか>
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ジェンダー・社会・文化を取材し、英語と日本語で発信するジャーナリスト。ヒュー・ジャックマンや山崎直子氏など、ハリウッドスターから宇宙飛行士まで様々な方面で活躍する人々のインタビューを手掛ける。X(旧twitter):
@sakuya_kono