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夜の街で生き抜く家出少女たちは、かわいそうな被害者なのか

 自分のカラダと引き換えに、その日の宿と食事を得る家出少女たち。虐待や貧困などの問題を抱えた家から逃げ出し、自由を求めて行き着いた先では、セックスワークで生きのびている少女も少なくありません。
ベッドで膝を抱える少女

写真はイメージです

 そんな家出少女たちを長年取材してきた、ルポライターで文筆家の鈴木大介さんに、前回、家出少女たちのリアルな実情を聞きました。今回は、11月27日に発売された『里奈の物語』(文藝春秋)のモデルとなった少女や、執筆に至るまでの背景も含め、引き続き家出少女のリアルについて聞いていきたいと思います。

ほとんど学校に行かず、3人の弟妹と育った里奈

――『里奈の物語』のモデルになった家出少女は、どのような女性ですか? 「里奈は、実の母親の姉のもとで、3人のきょうだいと一緒に育ちました。養母はナイトワーカーのシングルマザーで入り組んだ事情を抱えていたため、里奈はほとんど学校に行かず、きょうだいの面倒を見ていたんです。  でも、途中からきょうだいと離れてひとり養護施設に入れられ、数年後家族の元へ戻ったものの、不自由さに耐え切れずに15歳で家出をしました。その後はセックスワークで生き延びながら、一時は大規模な未成年者の売春組織の統括もしていた、当時19歳の少女です」
姉妹

写真はイメージです

女性性を売るか売らぬかは“女の自由”

――前回、里奈との出会いで価値観が覆ったとのお話でしたが、どういうことでしょうか? 鈴木「里奈に出会う前の僕は、セックスワークの中でも特に売春は、女性の尊厳や自尊心を捨てるに等しい不適切な自助努力なのか、その自助努力を含めて彼女らの生き様を肯定すべきなのか、立ち位置を決めかねていた部分がありました。しかし彼女は、自分たちはお金で買われているのではなく『売ってやっている』、女の性を売るのは生きるための戦略で、それを選ぶか選ばないかは『女の自由』だと言うんです。  そうやって選択的に自由を得ているから、自由と不自由の天秤のバランスがとれていれば、被害者ではないと。一方で、里奈には『被害者像のグラデーションを無視するな』と強く言われました。彼女は家出少女たちをかわいそうな存在として切り取り、一律に不幸だと決めつけることに憤りを感じていたんです。  なぜなら、彼女が見てきた仲間の家出少女らは、同じ貧困環境に育っても一切愛情を受けずに育ってきた子とそうでなかった子では抱える苦しさや不自由の相が違っていたり、例え貧困とは言えない経済環境に育っても圧倒的に愛を与えられず自由を束縛されて飛び出してきた子もいたりした。単純に虐待で貧困だから可哀想では、『本当にかわいそうな子』が見えなくなっちゃうじゃねえかというのが、里奈の訴えだった」

里奈は我慢を突き破った実践者

――そんな里奈をモデルに小説を書こうと思われたのは、なぜですか? 鈴木大介著『里奈の物語』(文芸春秋、11月27日刊)鈴木「いちばんは、彼女が多くの家出少女の中でも、ある意味非常に恵まれている子だったから。自由を奪われたくないという理由で地元を飛び出してきた彼女でしたが、里奈は単に状況に流されるのではなく、非常に戦略的に夜の街を生き抜いてきた子でした。その背景には、養母やその仲間といった生粋のナイトワーカーたちが幼いころから里奈に授けてきた「女の生き抜き方」の教えがあります。  そんな里奈だからこそ、家出後も周囲の年長者が彼女に戦略を授け続け、たとえ組織売春という犯罪の場であったとしても、多くの少女らが彼女によって救われたからです」
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「貧困女子」的な文脈で見世物化したくなかった
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