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宇垣美里「息苦しい日本に生きる私は、胸が苦しくなった」/映画『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』

 元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
宇垣美里さん

宇垣美里さん

 そんな宇垣さんが公開中の映画『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』についての思いを綴ります。
ロニートとエスティ 彼女たちの選択

『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』より

●作品あらすじ:厳格な世間を生きる女性2人の赦(ゆる)されざる愛を描きます。  イギリスのユダヤ・コミュニティで生まれ育ち、惹かれあっていた幼なじみのロニート(レイチェル・ワイズ)とエスティ(レイチェル・マクアダムス)はユダヤの信仰のもと引き裂かれていました。けれども、二人は、ロニートの父の死をきっかけに数年ぶりに再会します。  ニューヨークから故郷に戻ったロニートは、エスティが幼なじみ男性と結婚していたことを知り、ショックを受けます。一方、恋愛感情はないものの尊敬する夫との安定した結婚生活が幸せだと思い込もうとしていたエスティでしたが、ロニートとの再会で本当の自分を取り戻そうとします。  再び出会い、周囲からの監視にもかかわらず封印していた熱い想いがあふれ、愛と信仰の間で葛藤する彼女たちが最後に選んだ道とは…  きびしい世間から禁じられる中、お互いを求め合う2人の女性の物語を、宇垣美里さんはどう見たのでしょうか?(以下、宇垣さんの寄稿)

信仰と愛の狭間で、抑圧への“不服従”を貫いた2人の女性

ロニートとエスティ 彼女たちの選択

『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』より

 どんな親でも敬わねばならないし、年長者の言うことは絶対。女は男の3歩後ろを歩く。かつて“当たり前”だったそれらの不文律は、今や時代遅れだ。  親だって間違うときはあるし、年なんて生きてりゃ勝手にとる。女だって男だって、共に生きると決めたなら、足を怪我してない限り同じ歩幅で歩けばいい。  世界は今、少なくとも人類史上もっともフリーな状態にあるはずだ。それなのに、どこか息苦しさの残る日本社会に住まう私は、厳格なユダヤ・コミュニティに生きた2人の女性に自分を重ねていた。
ロニートとエスティ 彼女たちの選択

『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』より

 父への愛、信仰心、友への愛、そして性愛。それらに貴賤などあるはずもないのに、伝統や制約の中で自分らしく生きることは難しい。2人の再会で溢れだした、抑圧の下でも消えなかった強い思い、視線を絡ませるだけでにおいたつ愛の尊さ。なぜこんなにも美しいものが禁じられねばならないのか。  戒律であるカツラを外し、会話するかのような深い吐息をついた姿に、ああ、彼女はようやく空気を吸えたのだな、と胸が苦しくなった。  伝統によって引き裂かれ、奪われ、なかったことにされた愛は、でも確かにそこにあった。たとえ二度と会わなくとも、愛した人がいたこと、それを胸に生きていくことこそが、抑圧へのNOであり、原題の“disobedience(不服従)”の証しだろう。  まだまだ現代にも多くのしがらみや偏見は残る。けれど、人間は選択することができる。かつての当たり前に対してNOを選択し、そんなのおかしいと声を上げた人がいたから今がある。信じることも、愛も、生きることも、みな誰かの選択の末であるべきだ。 『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』’17年/イギリス/1時間54分 監督/セバスティアン・レリオ 配給/ファントム・フィルム ©2018 Channel Four Television Corporation and Candlelight Productions, LLC. All Rights Reserved. <文/宇垣美里> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
宇垣美里
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。
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