不妊治療を終えると決めた37歳「ギャンブルのような恐怖だった」
先の見えない不妊治療は体だけでなく、心や金銭面にも大きな負担を与えるもの。「自分の子どもが欲しい。」という願いがなかなか叶わない苦しみは、「辛い」という言葉では語り尽くせないでしょう。
2年前に始めた不妊治療を、昨年末から休止しているという雪さん。彼女が治療を始めたのは、結婚3年目でした。なかなか子どもに恵まれず周囲からのプレッシャーに悩んでいた時、友人から不妊治療を始めたという話を聞き、「自分もやってみよう」と思ったのです。
「人工授精だけでなく体外受精(顕微授精)も行いましたが、身体的・精神的・金銭的に苦しかったです。」
雪さんを特に苦しめたのが、体外受精。体外受精とは通常、体内で行われる受精を体の外で行う方法のことを指します。雪さんが行った顕微授精は体外受精の1種で、顕微鏡を用いて、精子を直接卵子に注入し受精させます。
人によっては、移植できる胚盤胞(はいばんほう:受精から5~6日発育した胚)になった受精卵が10個以上できることもありますが、雪さんはたった1つだけ。「1回の治療で50万円ほどかかるので、財布からお金が出ていくことが怖かった。私に与えられたのは、たった1回のチャンスだけ。それを移植しても着床しなかったら、また50万円を支払わなければいけない恐怖。まるでギャンブルでもしているような気分でした。」
また、ホルモン剤の内服や注射による副作用も雪さんの負担に。食欲不振が続き、1日の食事量は通常の人の一食分以下になってしまいました。8kgも体重が落ち、もともとやせ型だった体はあばら骨が浮き出るほどになったと言います。「薬の影響か、精神的にも不安定になり、イライラしたり泣いたり。人生で初めて過呼吸を起こしてテタニー(手足のしびれや筋肉がけいれん・収縮する)を起こしました。」
不妊治療という先の見えないトンネルの中で雪さんはやがて、新たな道を考えるようになっていきます。「絶対に子どもができる保証もないのに、そこまでしなくてもいいのでは……と思うようになりました。今を楽しく生きていこうと思い始めたんです。」
子どもがいない人生を生きていくことへの葛藤は吹っ切れた、そう語る雪さんは今年の冬に最後の移植を受け、治療を終了する予定です。
そんな経験を繰り返す中で、必ず向き合わせなければならなくなるのが「いつ不妊治療を止めるか」という問題です。現在37歳の雪さんも、難しい選択を迫られたひとりでした。
「まるでギャンブルでもしているような恐怖で」
治療による副作用でも追い詰められていく雪さん
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