まさに、振り返れば同棲中の彼氏がいる中、絵里さんは最前列の方で年下君とライブを見ていたそう。

「年下君は嬉しそうに、私の腰に手を回していちゃいちゃしながら観ていました。もうばれたらどうしようって自分の胸の音がうるさくて。そんな時に、今度はスマホが鳴ったんです。冷や冷やしながら、画面を見たらちょっといいなって思っていた、派遣先の年上の上司から『今度、食事に行きませんか』というお誘いでした」
「二兎を追う者は一兎をも得ず」どころか、三兎目も出てきたという状況に、絵里さんはどのように切り抜けたのかというと……
「
せっかくのモテキを逃すわけにはいかないので、『おなかが痛い』という古典的な嘘をつきました。とにかく、その場から逃げたい一心で。年下君は『大丈夫? 』と何度も心配してくれましたが、年下君を振り切り『気持ち悪いから外に行く』と言って、みんながライブに集中している間に、顔を隠しながら店内から脱出しました」
まるで忍者の脱出劇のように足早に会場を後にした絵里さん。
「入口付近にいた彼氏を見つけ、近くにあったビルのロビーに移動しました。そこで
『勝手に来ないで』と逆切れしました。今思えば、彼も心配してきてくれたのに、なんで私がキレてるのかわからないですが……。とりあえず、年下君には『今日は帰る』と連絡して、その場を切り抜けました。すぐに店内からは見えない場所に移動していたのですが、店の入り口で、キョロキョロしながら、私のことを探している年下君の姿が見えたときは申し訳なかったですね」
絵里さんいわく「まさに、心臓が止まるかと思った」という鉢合わせの瞬間でしたが、今後は今回以上のハプニングが訪れてしまう可能性だってあります。いいとこどりを狙いすぎて、いつかは大事な一兎目の彼氏も失ってしまわないよう、よくよく考えて行動してほしいものですね。
―シリーズ「
危機一髪だった瞬間」―
<文/阿佐ヶ谷蘭子 イラスト/やましたともこ>