無料食堂を行うとんかつ店、店主の想い「99人に騙されても1人が救われれば」
奈良県にあるとんかつ店「まるかつ」。ふわふわで甘いお肉とサクサクの衣が地元で人気のとんかつ店です。このまるかつでは、通常営業とあわせて申し出た人にはいつでも無料で食事を提供する「無料食堂」を2018年から行っています。
まるかつの店内に貼られたポスターには、「もしどうしても、お腹が空いても、お家にお金がないときやお子さんにおいしいものをお腹いっぱい食べさせてあげたいのにご事情があってむずかしいときなどはコソッと店長に相談してください。(中略)そのときは、店長のおごりで、コソッと無料でお腹いっぱい食べてもらいます」(店内ポスターより)とあり、楽しい口調で無料食堂の告知をしています。
また、こどもの目線の高さに貼られたポスターには、かわいらしいイラスト付きで「おうちでごはんがたべられないこはここでたべられるよ(原文ママ)」とあります。
なぜ、とんかつ店を営む一方で無料食堂を始めたのか。まるかつ店主の金子友則さんに話を聞きました。
――無料食堂をやろうと思ったきっかけを教えてください。
金子友則さん(金子)「当時、3歳の子どもがマンションの一室で食べ物を与えられずに亡くなったという報道をみて衝撃を受けたことがきっかけです。食べ物がたくさんある日本で、飢えで亡くなってしまう子どもがいるということを知り、『なぜこんなことが起きてしまうのか』ととても悲しい気持ちになりました。そこから私にできることはないかと強く考えるようになったんです」
――子どもの貧困・虐待問題がきっかけだったんですね。
金子「その後、以前からうちの店に通ってくださっている60代の常連のお客さんから『店長、恥ずかしい話だけど…。お金がなくてご飯が食べられなくて困っているんや』という相談を受けました。ご家族が家のお金と通帳を持って出ていってしまったとのことでした。話を聞いて『それであれば無料で食べてください』と、うちのメニューを食べてもらいました。年齢や状況に問わず、今ご飯が食べられなくて困っている人がいることを改めて感じました。私は飲食店をやっている料理人なので、何かできるとしたら、うちのご飯を食べて元気を出してもらうのが一番よいと考えて無料食堂を始めました」
――2018年から今まで、どれくらいの方が無料食堂を利用されたのでしょうか。
金子「のべ900人に利用していただいています。2019年からコロナ禍になり利用者は増えましたが、無料食堂をやっている中で感じたのは、コロナ禍関係なく生活が苦しい人はどんな時も苦しくて、食べ物に困っているということでした」
――実際にどういう方が無料食堂を利用されているのでしょうか?
金子「とある娘さんから『私の父の会社が倒産してしまいました。父は食事も食べられない状況の中、会社の債務整理をしています。私は遠方に住んでいてすぐに父のもとに行けないので、父にご飯だけでも食べさせてあげてください』とご連絡をいただき、お店にきていただいたお父さまに無料食堂を利用していただいたことがあります。利用される方々は私の想像が及ばない事情を抱えています。こちらから利用する理由を聞くことはないのですが、皆さん食事をしながら身の上話をしてくださることが多いです」





