20代後半までスナックで働いていた41歳女優がかもしだす“湿り気”とは
尾野真千子の演技にはいつもふるえる。純粋に演技に感動する他、そのユニークな経歴にも驚く。
これまで筆者は、あえてイケメンと呼びたくなる女性俳優として、前田敦子、田中みな実の名前をあげてきた。さらにもうひとり、尾野真千子を加えてみたいのだが、どうだろうか?
尾野真千子。彼女ほど映画的な存在も数少ない。すでに20年以上のキャリアだが、絶対的とも唯一無二とも言える存在感で常に芯を食った演技を見せ続けている。
近年で注目すべきは、名古屋学芸大学のプロジェクト作品『PLASTIC』(2023年)に尾野が出演していたことだ。同作は『EUREKA』(2000年)などの仙頭武則プロデューサーの下、プロと学生が映画を製作する画期的なもの。
これほどの大女優が、撮影規模ほど小さいものの、意義のある作品に出演し、協力するという心意気がほんとうにカッコいい。見た目も性格も紛れもないイケメンではないだろうか。
同作の共演陣には他に、とよた真帆、鈴木慶一、小泉今日子というそうそうたる顔ぶれが並び、尾野は彼らとともに主人公の若い男女を見守り、育むように助演している。まさに縁の下の力持ち。
福山雅治と共演し、取り違えた息子を巡る是枝裕和監督作『そして父になる』(2013年)では堂々の日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞したが、尾野の魅力は助演でこそ輝くようにも思う。
例えば『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』(2013年)でのヴァイオリニスト役。目が覚めるようにクールで危うげな滋味深さを漂わせた。3世代の女性をひとりで演じ分けた『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(2017年)の離れ業にも圧倒されるばかり。
主演俳優としての素晴らしさの一方で、むしろ助演の顔をひときわ大胆に光らせてくる。主演作品の合間を縫ってリズミカルに助演を連打する出演歴にこそ、尾野真千子の真髄がある。
テレビ東京で毎週金曜日深夜に放送されているドラマ『すべて忘れてしまうから』は、とっておきの尾野真千子作品。作家・燃え殻による同名エッセイをドラマ化したものだが、特にこれは鳥肌ものだ。 【原作についてはこちら】⇒エッセイ『すべて忘れてしまうから』Amazonページ 「イケメンと映画」をこよなく愛するコラムニスト・加賀谷健が、“尾野真千子らしさ”を考える。
大女優の心意気がイケメン
助演を連打する出演歴
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