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NHK『大奥』、見る者にもエールを送る物語の裏で、細部にまで美意識が宿っていたポイントとは

大奥(C)NHK

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よしながふみの傑作コミックを原作とし、2シーズンにわたって放送されてきたNHKのドラマ『大奥』がついに幕を閉じた。ラストの天璋院(福士蒼汰)の言葉には、「もしかしたら本当に、この国はかつて、女子(おなご)が将軍の座についていたのではないだろうか」との説得力があった。そして最後には、「私が私らしく」「己の翼で飛べるように」とエールを送られているような作品だった。 【画像をすべて見る】⇒画像をタップすると次の画像が見られます

シーズンを通して、『大奥』は照明の美しさも印象的だった

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大阪城で14代将軍・徳川家茂(志田彩良)が薨去し、15代将軍は一橋慶喜(大東駿介)が継いだ。その年の末に孝明帝(茂山逸平)が崩御すると、「和宮江 謀反人は岩倉と薩摩」との文が届く。天璋院によれば、京では帝は「毒殺だったのではないか」と噂されているという。先だっての御宸翰と同じ筆跡に、これは先帝からの訴えだと語気を強める和宮(岸井ゆきの)だったが、天璋院は筆跡だけでは真の文との“証拠”にはならないと言うしかない。 ところで本作はシーズンを通じて、照明が実に素晴らしかった。日に照らされた草花や、雨上がりの煌めき、月の明かり、ホタルの柔らかな点滅、提灯の火の揺らめき、それらを掬うことで浮き立つ影にも、時代劇ならではの美しさが際立った。この、先帝の文ではないかと伝えるシーンも、夕暮れ時らしい照明が効いていた。向かい合う和宮と天璋院の、日の届かぬ顔半分は陰となり、徳川と世の危うい状況を感じさせた。

和宮の「蔑まされたら誇り返したらええやろ!」に拍手

大奥(C)NHK

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やがて、鳥羽伏見の戦いが勃発。「錦の御旗」を掲げた新政府軍が勢いを増すと、慶喜は江戸城へ逃げ帰る。尻ぬぐいする羽目になった海舟(味方良介)が、薩摩藩邸での西郷隆盛(原田泰造)との談判へ向かうことになる。土御門(山村紅葉)や能登(中村アン)と「錦の御旗」について話していた和宮は、こちらも先帝の文と同様、“証拠”がないではないかと思い至り、「私もできることがしたい」と、天璋院と瀧山と談判に伴う。 薩摩藩邸では、西郷が、徳川の女将軍が日本を恥ずべきものにしたと断定する。そして、これでは日本は未開の蛮族の国と蔑まれてしまう、「徳川にこの世から消えてもらうことで、この国は生まれ変わったと示さねばなりもはん」と続けた。 控えていた隣の間から、我慢できずに入って来た和宮の「蔑まされたら誇り返したらええやろ!」には拍手を送りたかった。本作には、社会的に響く大きなテーマが描かれてきているが、個人の胸に持ち帰ることのできる言葉にも幾度も出会う。「蔑まれたら誇り返したらいい」も、まさにそうだ。この最終回だけで、和宮は、もうひとつ、とても素敵な言葉を口にする。
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私らしく入れた場所、大奥
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