教育過熱の街・たまプラーザで見えた“疲れ切った子どもたちの実情”。「居場所」開く女性が明かしたのは
渋谷駅から東急田園都市線で30分ほど、「神奈川の成城」との異名を持つたまプラーザ駅は、郊外ながらハイソな雰囲気が漂う。
もともと東急電鉄による「多摩田園都市構想」の中心地として、再開発が進められたたまプラーザ駅。駅周辺には商業施設『たまプラーザ テラス』や東急百貨店があり、スターバックスや老舗書店の有隣堂、ユナイテッドアローズなどのテナントが入居する。
また駅前には、一帯を囲うようにケヤキ並木の街路樹が整備され、緑ある街並みも落ち着きを感じさせる。
そんな住環境の良さを匂わせる街並みを歩くと、ひときわ目を惹くのが“学習塾の多さ”だ。
「SAPIX」「日能研」「河合塾」「TOMAS」「早稲田アカデミー」――。都心から離れた住宅街でありながら、あたり一帯には小学生から高校生までを対象にした学習塾が200弱も集積しているという(塾検索サイト『塾選』による)。
こうした受験激戦区で、小中高生が息抜きで訪れるのが、私設図書館『ぷらに』だ。
“たまプラーザ駅から徒歩2分”だから、略して『ぷらに』――。そう呼称される私設図書館には、さまざまな事情を抱えた子どもたちが訪れる。
不登校の児童が学校の代わりとして利用したり、受験勉強に疲弊する学生が塾の行き帰りに立ち寄ったり、自閉症やADHDなど発達特性を持つ当事者が相談に来たり……。来訪する動機はさまざまだが、一様に羽を休めたい子どもたちが集まる。
一見、教育環境が整うハイソなエリアの水面下で、居場所やSOSを求める子どもたちはどのような問題を抱えているのか。
たまプラーザ駅前の学習塾がひしめく表通りを抜け、裏路地のビルに入ると、その一室に「図書館やってます」と手書きの看板が目に入る。
呼び鈴を押すと、運営者の青柳志保さんが迎え入れてくれた。私設図書館とはいえ、2Kの一室は自宅のような佇まいだ。ここ『ぷらに』は、動画制作を生業にする青柳さんの仕事場の一部を、子どもたちのために開放しているという。
端的に言えば、同級生の友達の家にふらっと遊びに来て、テーブルに置かれているお菓子をつまみながら、本棚に置いてある漫画や本を読む。そんなラフで開放的な雰囲気だ。
青柳さんが『ぷらに』を立ち上げたのは2021年。当時はコロナ禍の最中で、学校も休校が続くなか、息子が同級生を連れて仕事場にたむろするようになったのが発端だった。
そのうちコロナが収束し、休校措置が解除された中でも、通学を拒む子どもたちが一定数現れた。そうした登校をしぶる学生に、自宅や学校でもないサードプレイスを提供したいと考えた青柳さんが、部屋の一角を開放するようになり、現在の『ぷらに』が形作られていく。
やがてインスタグラムなどSNSで発信を続けるうち、1週間で10人ほどの少年少女が訪れるようになった。そのうち子どもたちとの対話を続けると、表面的には恵まれた家庭で育ったように映る利用者にも、複雑な背景が垣間見られるようになる。
「主に『ぷらに』には、小学校中学年から高校生までが訪れますが、彼らの半数以上が塾に通っています。表向きには、親との関係が良好であるように見える子どもも、ここでくつろいでいると不仲であるのが垣間見える瞬間があります。
過去に、都内有数の進学校に通っている中学生の女の子がいました。その子は5歳から塾に通って小学校受験を経験し、一見おとなしくて品のある女の子なんです。最初、お母さんに連れられてここに来たときは従順な様子で、私に対しても『お菓子いただいてもよろしいですか?』と行儀良く振る舞うんです。
それが一変、お母さんがいなくなった途端に口が悪くなるんですね。舌打ちしたり、お母さんに対して『うざい』と悪口を言ったり、態度が急変するんです。私が裏で仕事をして存在感を消していると、友達との会話の中でお母さんのことを『クソババア』と言って愚痴をこぼすこともありました」
一見、その場の空気を読んで、本音と建前を使い分けられるのは、成長の証にも思える。
ただ裏を返せば、子どもが素の自分を抑え込み、窮屈な思いをしている証左とも取れる。過干渉とは言わないまでも、教育熱心な親に疲弊した子どもは多いという。
「この女の子のように、家庭環境に疲れた子どもの一定数は、“マスクを外さない”という共通項があります。それは親の顔色を伺う習慣が身についたことで、自分の本心を悟られたくないという裏返しにも見える。どこか早熟すぎる雰囲気を纏っているんです。
幼少期から受験勉強を強いられ、周りの家庭と学力や経済力で比較され、毎朝毎晩ラッシュの電車に乗って通学する――。こうした環境を考えると、子どもを良い学校に入学させることが、どれだけ本人のためになるのでしょう。
もちろん親が子どもの将来を思って投資して、塾や習い事に通わせるのは良いことだと思いますが、同時に線引きが大事だと実感する機会も多いです」
仕事場の一部を「私設図書館」に
たまプラーザ駅前の学習塾がひしめく表通りを抜け、裏路地のビルに入ると、その一室に「図書館やってます」と手書きの看板が目に入る。
呼び鈴を押すと、運営者の青柳志保さんが迎え入れてくれた。私設図書館とはいえ、2Kの一室は自宅のような佇まいだ。ここ『ぷらに』は、動画制作を生業にする青柳さんの仕事場の一部を、子どもたちのために開放しているという。
端的に言えば、同級生の友達の家にふらっと遊びに来て、テーブルに置かれているお菓子をつまみながら、本棚に置いてある漫画や本を読む。そんなラフで開放的な雰囲気だ。
青柳さんが『ぷらに』を立ち上げたのは2021年。当時はコロナ禍の最中で、学校も休校が続くなか、息子が同級生を連れて仕事場にたむろするようになったのが発端だった。
そのうちコロナが収束し、休校措置が解除された中でも、通学を拒む子どもたちが一定数現れた。そうした登校をしぶる学生に、自宅や学校でもないサードプレイスを提供したいと考えた青柳さんが、部屋の一角を開放するようになり、現在の『ぷらに』が形作られていく。





