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Vol.15-2 親友からの結婚祝いも捨てる妻…「地獄の束縛」に夫が耐えたワケ

指が自由に動くことの希望

指が自由に動くということには、大きな意味があるんです。この苦しみを、この理不尽を、いざとなったらこの指で携帯に打ち込んで、文章にして、どこかに発信できる……かもしれない。いえ、発信する勇気なんてまるでなかったですが、発信できるかもしれないという可能性があるだけで、僕にとっては救いだった。毎日、寝る前の数十分間だけでも、自分は生きてるって感じられたんです」  アウシュビッツ、という言葉が浮かんだ。 「当時はそんな程度のことでも希望だったんですよ。この苦しみを誰にも伝えられないまま、いずれ僕が消えていく。そんな絶望に比べたら、指だけでも動かせるのは、遥かにマシだなって」 ※写真はイメージです

「タイガー&ドラゴン」のセリフを胸に

 ここで仲本さんは、長瀬智也と岡田准一主演の「タイガー&ドラゴン」というTVドラマの話を持ち出した。脚本は、昨年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」を担当した宮藤官九郎。落語家一門の物語である。 「結婚前の志津と同棲中に見たドラマなんですが、妙に心に残っているシーンがあるんです。かなりうろ覚えなんですけど、岡田准一演じる落語家が、どうしようもなく絶体絶命の窮地に追い込まれた時、たしかこんな感じのことを言うんですよ。『あとでネタとして話す時のこと考えると、すげえワクワクするぜ』って。 僕は寝床で『倉庫番』をやりながら、毎晩のようにそのことを思っていました。過酷な吹雪の中で、それだけが唯一の希望だったんです。もし、いつか生きてこの窮地を脱出できることがあれば、この地獄をネタにして誰かにおもしろおかしく話せる。落語みたいに“噺(はなし)”として昇華できる。このつらい経験は決して無駄じゃなかったと思えるって」  なんて強い人間なのだろう。しかし『倉庫番』と「タイガー&ドラゴン」だけで、仲本さんの地獄は埋められなかった。結婚して3年が過ぎる頃から、仲本さんはある特殊なポルノビデオにはまりだす――。 ※続く#3は、6月1日に配信予定。 <文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>
稲田豊史
編集者/ライター。1974年生まれ。映画配給会社、出版社を経て2013年よりフリーランス。著書に『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)、『オトメゴコロスタディーズ』(サイゾー)『ぼくたちの離婚』(角川新書)、コミック『ぼくたちの離婚1~2』(漫画:雨群、集英社)(漫画:雨群、集英社)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。【WEB】inadatoyoshi.com 【Twitter】@Yutaka_Kasuga
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