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離婚した妻が包丁を手に「金貸せーっ!」。ホラーのような離婚劇の結末は…

「震災やコロナと同じ」

 よどみない口調で、筒本さんは続けた。 「天災みたいなものです。東日本大震災や新型コロナと同じ。前触れもなくいきなりやってきて、日常を根こそぎ全部変えてしまう。真面目に生きてさえいれば災厄を逃れられるわけじゃないでしょう? 平穏な日常が、ある日突然、『私、死ぬから』と口走って家を飛び出すメンヘラ妻を探しに行く日々に変わる。それが、いつ終わるとも知れず続く。想像できます?」 写真はイメージです いやあ……と曖昧な返事をすると、すかさず言われた。 「自己責任論とか言うの、なしですよ(笑)」  日頃から防災の備えがあれば、あるいは適切な行動を取っていれば、震災で命を落とすことはなかったのか。新型コロナに罹患したのは外出自粛を怠ったからなのか。結婚に失敗したのは、「そういう妻」を選んだ男の責任なのか――筒本さんが言っているのは、そういった類いの自己責任論だ。  筒本さんはこれまで嫌というほど、「失敗した結婚」についての自己責任を周囲から問われ続けたのだろう。

数年後知った事実。元妻はちゃんと働けていた

 筒本さんは離婚の数年後、同業者を通じた風の噂で、亜子さんが映像関係の会社に就職したことを知る。しかも、現在に至るまで会社勤めはかなり長続きしているという。 「驚くことに、2、3年に1回、思い出したように亜子から電話がかかってくるんです。で、うっかり取っちゃうんですよ。用件ですか? しれっと映像関係の仕事の相談とか、業者の紹介依頼とかです。彼女、ごく普通に仕事してるんですよ。同業者で亜子と仕事したことあるやつに聞いたら、まあまあちゃんとしてるそうなんですよ。なんなんですかね、一体……」  筒本さんは心底呆れたという顔をして、言った。 「結局、亜子は僕と結婚して仕事をする必要がなくなったから、余計なこと考えちゃって、おかしくなっていったと思うんです。その証拠に、離婚して働かなきゃいけなくなった今は、ちゃんと普通に仕事ができてる」 「つまりですよ」と筒本さんは畳みかける。 「亜子は僕と結婚しなければ病気も悪化しなかったし、仕事も辞めずに続けられた。僕と結婚したから不幸になったんです。あらゆる意味で、しなくて良かった結婚でした。誰も、何も、得してない」  あまりに救いがない。身も蓋もない結論だ。 「ほらね、学びなんかないでしょ(笑)。反省したってしょうがないんです」 <文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>
稲田豊史
編集者/ライター。1974年生まれ。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。著書に『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)。「SPA!」「サイゾー」などで執筆。 【WEB】inadatoyoshi.com
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