「すぐに部屋を探して引っ越して。忙しかったですね。ちょうどそのころ私の仕事は繁忙期が始まったところで、ただでさえ残業続き。それでもなんとかがんばりました」
疲れ果てて深夜に帰宅すると、彼はすでに寝ている。テーブルの上には食べ終わったカップラーメンのゴミが置いてある。
「彼が料理できるかどうかも知らなかったわ、そういえばと思った日がありました。でもそのときはそれ以上、考えられなかった。明日も仕事をするために早く寝たい。それだけ。週末もどちらか1日は必ず仕事でしたし、休みの日はとにかく眠っていました。
彼にももちろん、私の繁忙期については話してあったけど、今思えば、どのくらいわかっていたのか……。超繁忙期が一段落したところで、ようやく彼が帰宅したとき、夕飯を作っておくことができたんです」
彼がそれを見て「おいしそう」と言ってくれるものだと彼女は信じていた。ところが彼の口から出たひと言は、「え、いいよ、ラーメン食べるから」だった。
「彼は子どものころから母親に夕飯を作ってもらえなかったので、インスタントラーメンや菓子パンばかり食べていたそうです。だから今でもそういうものでじゅうぶんなんだそう。家庭料理が気持ち悪かったみたい。
うちも母が働きづめで夕飯はめったになかったけど、私は小学校中学年くらいから自分で作ってました。同じひとり親家庭でも、何かが違っていたんですね」