社内恋愛が禁止されているわけではなかったが、会社内でアサヒさんは彼との関係は内緒にしていた。他の女性たちから嫉妬されるに違いない。仕事しづらくなるのは困る。
「内心、自慢したくてしかたがなかったんですけどね。彼に愛される私ってどうよ、と思ってた。ときどき、彼の噂も耳に入ってきましたよ。この前、どこそこで彼がモデルみたいな女性と腕を組んで歩いていただの、人妻ともつきあっているらしいだの。彼が好きなのは私だけだという自信が揺らぐこともありました」
彼にそれとなく聞いてみても、もちろん認めるはずもない。「好きなのはアサヒだけ」と抱きしめられればすべての疑惑は溶け去っていく。
ときどき連絡がとれなくなっても、彼女は彼を信じてつきあい続けた。だがあるとき、彼女は同じチームの女性から、「実は私、上司(ショウタさん)とつきあっているんですが、先輩にだけお知らせしておきますね」と言われた。さすがにそのままにはできず、ショウタさんにその話をしたが、彼はそんなことはないの一点張り。
「本当に浮気してないなら、今すぐ私と結婚してよと迫ったんです」
思いがけなく、彼はすぐにイエスと返事をしてくれた。アサヒさんはすぐに準備を始め、その1ヶ月後、ふたりは結婚。レストランを借り切ってパーティを催した。
友人や仕事仲間からは、「あのモテ男を落とすなんてすごい」「彼が選んだのがアサヒだったなんて」と賞賛されたり妬まれたり。それでもアサヒさんはうれしかった。
「ただ、そのパーティの最中、彼が消えたんです。みんなわいわい談笑していたので、こっそり抜けて探しに行くと、レストランの裏で彼と、例の同僚が揉めてた。
彼女は泣いて彼にくってかかって、彼がなだめている感じでしたね。私、彼女に『私の夫だから、金輪際、手を出さないでね』と言って彼を引っ張ってパーティに戻りました」
勝ち誇った気分だった。