翌日からそれぞれがしばらく仕事で多忙になり、別居のまま生活を続け、2ヶ月後にようやく新居に引っ越し、片づけに追われつつ、その1週間後に3泊で旅行に出かけた。うまく休みがとれなかったので海外はまた後日ということで、北海道へ出向いた。
「結婚して初めて、ふたりで向き合った時間でした。結婚してからほとんど会ってなかったので(笑)。無理やり、そんな時期に結婚しなくてもよかったんじゃないのと周りに言われるくらい会えない日々が続いちゃって。だからこそ、北海道旅行をしたとき、あれ、私、本当にこの人と結婚したんだっけという妙な感覚にとらわれたんです。
旅をするのはいいけど何を話したらいいかわからない。彼が気を遣って、子どものころの話などをしてくれるんだけど、正直言って私、彼の子ども時代にそれほど興味をもてなかったんです。しかも彼は旅行中、ずっと早寝で(笑)」
日常生活が落ち着けば、彼ともだんだんなじんでくるのだろうと考えを改めた。ところが旅行から帰ってきても、ふたりの間に性的な関係はなかった。週末はふたりで食事を作って食べたいと思ったが、彼は自室にこもる時間が長い。
ある日、彼女はスーパーに買い出しに行こうと彼を誘った。
「一応、一緒に行ったんですが、何を食べようかと言っても彼からあまりはっきりした返事がない。そういえば食べ物の好みもあまり知らなかったと思って聞いてみると、彼、ほとんど食べ物に興味がないんですよ。
パスタを作ったんですが、彼はインスタントのトマトソースでいい、と。平日は食事のしたくができないんだから、素材を買うのはムダだと言うんです。その通りなんだけど、ふたりで作って食べたいじゃないですか……」
望むことが少しずつ違う。怒るほどではないのだが、「違う、違う」とつぶやきたくなるような違和感が彼女を襲った。
もともと寝室は別にしていたので、夫がベッドに入ったころアキホさんから部屋へ行ってみたことがある。話しかけても夫の反応はなかった。まだ寝付いたとは思えないから、明らかに拒絶しているとしか思えなかった。
「子どもができたらという話をしていたのに。一緒に暮らして3ヶ月くらいたったころ、もう嫌だと思いました。
『あなたは私とどういう生活を望んでいるの?』と聞いたら、彼はもごもごしながら、『実はこれほど早く結婚を決めるつもりはなかった』って。もっと長くつきあってお互いを見極めたかった、だけど私があまりに前のめりなので断れなくなったんだって。
一緒に生活してみたら、うまく言えないけど何かが違うと思った、と。私も同じように思っていたから、これからどうするという話になって」
結局、気持ちが一致したのはこのときだけだった。「一緒にいる意味がないよね」と。彼はこの違和感の中で子どもができたら困るため、彼女と性的な関係を結ばなかったのだと白状した。