「期待しないと決めたのは私だけど、
本当は夫に期待したかったんですね。だけど裏切られるとイライラするから防衛本能で夫との関わりを薄くしていた」
夫も、土曜日に仕事に出かける妻にやさしい言葉をかけられない自分を反省していたようだ。実際、子どもふたりを相手にしながら家事をする大変さも身にしみた。家事をせずにいようとも思ったが、やはりたまった洗濯物を見ないようにはできなかったらしい。
「泣き出した私を見て、夫も目を潤ませていました。『
いろいろ、ごめん』と夫が不器用に言うので『
私も』って。それだけで温かいものが心の中に流れ込んだ気がしました」
だからといって、夫が全面的に家事を分担してくれるようになったわけでもない。それでも週末には洗濯や料理を少しずつするようになっている。
「つきあっていた彼とは別れました。なぜか急に恋心が冷めてしまって。夫に惚れ直したというところまではいってないんです(笑)。だけど夫は変わろうと努力はしてくれている。それは伝わってきています。
あのまま夫をあきらめてしまわなくてよかった。自分の本当の気持ちに気づいてよかったと今は思っています」
日常生活に追われると、自分の本音を封印してしまうことがある。そのほうが暮らしていきやすいからだ。感情は子どものためだけに稼働させ、夫には感情抜きで接すると言った女性もいるほどだ。
「ステイホームの時期、私は週に3日出勤、夫は週1度だったんです。家の中のことや子どものことは、どうしても夫に頼らざるを得なかったけど、ときどき愚痴りながらも夫はよくやってくれたと思う。本人も自信がついたみたい。先日ふと、『
オレ、やっとこの家の一員になれた気がする』って言ったんですよ。もしかしたら夫を家庭から追いやっていたのは私だったのかもしれないとちょっと反省しました」
家事も育児もろくにやらない夫なら、いないほうがいい。そんな思いが子どもをもつ働く女性にはあるかもしれない。それが夫に伝わっていた可能性もある。
夫婦間の信頼は、ふとしたことで崩れることがある。だが、ふとしたことで再構築できることもあるのではないだろうか。
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夫婦再生物語―
<文/亀山早苗>