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森山未來がボクサー役に「役に埋没するような生き方はしたくない」

 ’19年の大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』で、物語全体の狂言回しである美濃部孝蔵役が記憶に新しい森山未來。今年は日本・カザフスタン合作映画『オルジャスの白い馬』で主役を演じるなど、その活躍は国内にとどまらない。そんな彼が、11月27日公開の劇場版『アンダードッグ』では、かつて日本ランク1位を獲得しながら、現在はかませ犬としてリングにしがみつくボクサー・末永晃を演じる。

森山未來がボクサー映画で到達した役作りの境地

森山未來 海外の演出家やカンパニーと組むことも多い森山が、本作への出演を決めたのは何だったのか。 「何よりも(同じ監督・武正晴×脚本・足立紳による)『百円の恋』が素晴らしかったので、2人がまたタッグを組んだ作品なら出てみたかったのが第一です。最近は、その作品固有の匂いがしない映画が多いなかで、『百円の恋』からはかつての古くさい愚直な日本映画のような生々しい匂いを感じたのが理由として大きいですね」  体づくりはもちろん、ボクサーの置かれた精神状態についても深く考える役作りになったという。 「僕が演じた晃は元日本ランク1位だけど、ボクサーは世界ランカーになって初めてスポンサーがついてボクシングだけで飯が食えるようになるそうです。そんな状況でかませ犬としてリングに立ち続ける晃は、もともと持っていた鷹揚な部分や、アグレッシブなところがどんどん削られ、居場所もなくなってしまう。あまりに過酷な世界を自分の人生としてチョイスしている人間の、ストイックさとはまた違うメンタルがあるんだろうなと思ったんです。あまりしゃべらない役だからこそ、なんでこの人がこうなったのかっていうことを、とにかく考えました」  森山といえば、役作りのために『苦役列車』(’12年)では三畳一間で暮らしたり、『怒り』(’16年)では無人島生活をしてみたりと、体当たりのアプローチでも知られる。だが、近年はそのやり方が変化してきたと語る。 「違う環境に身を置くと表情やメンタルも変わるから、役作りとして有効な手段ではあるんです。だけど、自分自身を全部取り払って空虚にするようなことを、あんまりやりたくない、とあるタイミングで思った。森山未來として歩いている道や歩き方があるから、自分自身としてそこに存在できればいいんじゃないかって今は思っています。今回も、体をつくる以外は役作りのためにあえて何もせず、クセやキャラをつけるのをやめてみました」

人前に立って自らの肉体で表現することを渇望している

アンダードッグ

©2020「アンダードッグ」製作委員会

 とはいえ、現場では自ら監督に意見やアイデアを出すことも多い。 「今回でいえば、晃の入場曲をCHAGE and ASKAの『モーニングムーン』にしたいと言ったのは僕です(笑)。映画を観てると唐突な感じもするんですけど、夜と朝の間をさまよう男女の歌であるこの曲は、ずっとさまよっている人間という意味で晃にすごく合うなーと思ったんですよね」  俳優・ダンサー森山未來と、ボクサー末永晃とは、正反対とも言える境遇にありながら、どこか共通するところも感じているそうだ。 「晃には、たくさんの観客を前にリングに立って、歓声を浴びて、日本ランク1位まで獲った時代がある。その快感をすごく渇望してアディクティブ(中毒症的)になっている人なんだろうと思うんです。人を殴り殴られるという行為も、肉体を使ったある種の根源的なコミュニケーション。人前に立って自らの肉体で表現することを渇望しているという意味では、僕も同じ。僕が今ここにこうしていられるのは出会いや運だったりするし、晃との間に明確な違いなんてなくて、ただ紙一重だと思います」
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役に埋没するような生き方はしたくない
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アンダードッグ
’20年/日本/前編131分・後編145分 監督/武正晴 原作・脚本/足立紳 出演/森山未來、北村匠海、勝地涼ほか 11月27日(金)より[前・後編]同日公開
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