「夫との子はほしくないと思っている矢先だったので悩みましたね。私の気持ちがわかったのか、妊娠を告げたとき夫もちょっと戸惑(とまど)っていました。でも『最初のころのように仲良くやっていこうよ』と言われて、一応私もその気になったんです」
だが12月に入ると夫は忘年会三昧、つわりで苦しむアリサさんは在宅勤務を増やしてもらっていたが、それでもたまらなくつらい日が多かった。
「それなのに酒臭い息をして帰ってきて、夫は私を襲うんですよ。やめてと突き飛ばしたら激昂したことがありました。殴りかかってきたので、裸足で逃げて隣の部屋に助けを求めましたね」
年末も、夫はほとんど家にいなかった。
「私たち、つきあっているときは、おたがいにいいところしか見せなかった。その後、彼の元カノの嫌がらせがあったので、やけにこっちふたりは盛り上がっちゃって一気に結婚ということになって……」
忙しいときは日常生活にかまけて、彼との関係を深くは考えなかった。顔が好きだからうまくいくと信じていたのだ。ところが顔さえ好きならうまくいくわけではないとわかった時点で、アリサさんは関係をきちんと作ろうとした。だが、夫はそれがめんどうだったようだ。
夫は「好き好き」と言って何でもしてくれる彼女のことが好きだったのだろう。どんなわがままも、アリサさんなら受け入れてくれると信じていたのかもしれない。
「私の体をちっとも心配せず、お正月の準備も手伝わない夫に愛想が尽きました。私は6日から出社なので、その帰りに友人に相談するつもりです。もう一緒に住んでいられない」
つきあいが短かったせいもあるのか、一度歯車が噛み合わなくなると修正する術がなくなってしまっているのだろう。
それでなくてもコロナ禍では、いろいろなものが炙(あぶ)り出された。新婚夫婦にとっては、この鬱々とした時代背景が吉と出るか凶と出るか、見通しがつかないところがある。
―シリーズ「
結婚の失敗学~コミュニケーションの失敗」―
<文/亀山早苗>
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