しかし疑念を抱いたにもかかわらず、なんと岩間さんは、引っ越し後しばらくしてから結衣さんに交際を申し込む。
「当時の僕は、仕事でひどいプロジェクトにアサインされて、プレッシャーとストレスで心身がめちゃめちゃでした。同時期に親しい友人が亡くなったり、その後に東日本大震災があったりして、精神がかなり不安定になっていたんです。毎日浴びるように酒を飲んで、生活が荒れまくって……。
とにかく誰かと寄り添いたかったんです。その誰かは、はっきり言って、誰でも良かった」
交際後すぐに同棲を開始。岩間さん36歳、結衣さん32歳。しかし同棲をはじめた直後に岩間さんは大きく後悔した。結衣さんは、ちょっとしたことでものすごい癇癪(かんしゃく)を起こす人間だったのだ。

※写真はイメージです(以下同)
「わかってはいたんですが、これほどのメンヘラだとは思いませんでした。たとえば、新居のカーテンを買いに専門店に行った時のこと。僕はこだわりがないのでなんでもよかったんですが、結衣は店内をしらみつぶしに回っても、全然気に入る柄がありませんでした。それで店員さんにカタログを何冊も出してもらったんですが、布のサンプルだけだといまいちイメージがわかなくて、やっぱり決められない。20分も30分もカタログとにらめっこしてる。今日はもう決まらないなと思って、『決められないんだったら、また今度にしよう』って言ったんですよ」
すると結衣さんはカタログを勢いよく閉じ、「はぁ?」と言って岩間さんを睨みつけた。
「
『カーテンないままじゃ暮らせないじゃない!』と大声で怒鳴り、自分の携帯電話を机に叩きつけました。店員も客もびっくりしてこっちを見ているのに、構うことなくわめき立て、僕のことを執拗になじるんです。第三者がいる前で大声を出すことで、自分を被害者だと印象づけたいんでしょう。仕方なく謝り倒しましたが、日々そんな感じでした」
公衆の面前で、頻繁に激怒する結衣さん。しかもその地雷は、「その程度のことで……」ということばかりだった。
「地下鉄内の轟音で結衣の声が聞き取りにくかったので、大きめの声で『えっ?』って言ったらキレる。レストランでワイン選びにあまりにも長時間悩んでいて、15分たっても20分たっても乾杯できないので、彼女がトイレに立った隙にとりあえずグラスを頼んでおいたらキレる。しかも、わざわざ周りに人がいるタイミングを狙って、僕がいかに悪い人間かを訴えるようにまくし立てるんです」
岩間さんは別れたいという意思を伝えるが、聞き入れてもらえない。
「
結衣は決まって『外に女がいるんだろう』と疑い、台所からこれ見よがしに包丁を持ち出してきて、わめくんです。エキサイトすれば容赦なく物を投げてきました。ワインの空き瓶を投げられたこともあります」
1年ほどは食い下がったが、やがて岩間さんは諦めてしまう。
「会社は相変わらずストレスフルで、心身ともに限界まで疲弊していましたから、家での修羅場に立ち向かうことができないんですよ。結衣は強い言葉と強い態度で僕を押し込めてきますから、押し返すのにものすごくエネルギーが要る。でも、そんなエネルギーなんて、一粒たりとも残っていませんでした。なんというか、エンジンがかからない」