Gourmet

洋食屋なのに「メキシカンライス」? 謎メニューが魅力の老舗レストラン

由来はまさかの…

町洋食

レストラン「ユニオン」

 ところが「ああ、あれはねえ」と藤井さんは急にモジモジし始めた。 「イメージっていうかね、適当です。あるときピラフにポークソテーをのせることを思いついて、でも名前をどうするか迷ってとりあえず感覚でこれにしました」  その答えを聞いて私はひっくり返った。何かあると思ったのに何もなかったのだ!  しかし、こういうユルさこそがこの店を支える魅力でもある。数えるほどしかないメニューから始まったこの店は、その後、近くにあって倍以上の広さがある現在の店舗への移転を経てメニューも膨大に。  さらに壁にはメニューに載っていない細々した一品がところせましと貼り出されている。洋食だけではない。和食や中華、居酒屋のつまみみたいなものまで。 「近所の人たちが、週に何度も来るんですよ。洋食ばかりじゃ飽きるでしょ。これできない? あれできない?という要望に応えていたらこうなりました」

実家に帰省したときのような安堵の時間

町洋食

もはや日本ではほぼ絶滅したアメリカ式中華料理「チャプスイ」。洋食屋で提供されていたそれが、ほぼ「中華丼」の形に変容して残っていた

 私がこの店を訪れるのは閉店が近い夜更けが多い。その時間になると藤井さんは営業を創業期以来のパートナーである老練のコックさんたちに任せ、入り口近くのテーブルで帳簿付けをしている。年に数回来るだけの私以外は全員ほぼ常連客だ。  藤井さんはお客さんが出入りするたびにまるで親戚のおじさんのように気さくに、だがいかにも元ホテルマンらしい丁寧さで声をかける。その中には孫ほども年が離れた若者もいる。お客さんはビールやハイボールと共に、安くて盛りだくさんな和洋折衷の「サービス定食」で一日の疲れを癒やす。  そこではまるで実家に帰省したときのような安堵の時間が、ただただ静かに流れている。
町洋食

お酒類を注文すると日替わりのお通しが無料サービスでついてくるのが妙に嬉しい。この日は鶏ハム。安価なおつまみも多く提供されている

【稲田俊輔】 鹿児島県生まれ。自身も飲食店を手掛ける飲食店プロデューサー。著書に『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社)、『南インド料理店総料理長が教えるだいたい15分!本格インドカレー』(柴田書店) <取材・文/稲田俊輔 撮影/山田耕司(本誌)>
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ユニオン
神奈川県川崎市高津区坂戸1-5-20
11時~14時30分、17時~21時30分 日曜定休
ボリュームのあるメニューも多く、食事の満足感は高い。飲みの場として利用するお客さんも多く、つまみも充実
(コロナの影響により営業時間はお店にご確認ください)

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