息子の態度は明らかに変わった。妻は「あの子、何かあったんじゃないかしら。あなたから聞いてよ。心配だわ」と言い出した。
「息子と話しました。ホテルへ行くつもりではなかったこと、近道だから駅まで行くのに通っただけだということ。
息子は信じてはいなかったでしょう。でも『オレは何も言わないから。お母さんを泣かせるなよ』と」

ヨシフミさんの恋心は、その息子の一言で泡のように消えていった。彼女が「離婚」を本気で考えていることも恋を萎えさせるにはじゅうぶんだった。
「私は恋をしていたはずなのに、いつの間にか結婚生活を脅(おびや)かされていた。それはすでに恋からは逸脱していたんですよね。
ケイコにはもうつきあえない、妻が病気だと嘘をつきました。彼女は『いつまでも待ってる』と言ってくれたけど、もう会うつもりはありません」
会社にも妻にも今のところはバレていないが、彼女が会社に乗り込んでくる可能性も、息子が母親にぽろりと漏らすこともあり得ないわけではない。
「毎日、ヒヤヒヤビクビクしながら暮らしています。まだ定年まで15年以上あるし、仕事を失いたくない。
こうなって初めてわかりました。やはり私は恋などしてはいけなかったんだ、と。
あの濃密な半年間は楽しかった。別の理由で彼女とすっきり別れていたら、恋は恋として思い出になったかもしれないのに……。いい年した大人の恋は、思っていたよりずっとむずかしい。そう思います」
守るものがある人は、もっと緻密(ちみつ)に恋を進めるべきだったのかもしれない。
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<文/亀山早苗>
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