
このごろ年をとったよさをしみじみ思う。まるで短篇小説のような人生の片々がたくさん記憶にあって、そのどれもが、いぶし銀のように輝いているのである。
若い時には、いい人か悪い人か、好きか嫌いか、であった。しかし今では、どんな変わった人も、おもしろい、会えてよかったと思う。退屈な人は一つのグループだけで、「権力欲の強い人」と「有名人に近づきたがる人」だけである。他の人はどんな癖も楽しく思える。(『「群れない」生き方』)
しかし考えてみると、優しさもまた、要求したら得られないものの典型である。「あの人に愛してほしい」という求愛の感情といっしょで、「私を愛してください」と要求したら、まず相手はうんざりして逃げ出す。
世の中には、追い求めたら逃げていき、求めない時だけ与えられるという皮肉なものが、意外と多い。優しさもまた同じだ。
優しくしてほしかったら、自分が優しくする他はない。あるいは、周囲の状況や他人の優しさに敏感に気づき、感謝のできる人間になる他はない。 (『人生の醍醐味』)