Entertainment

井之脇海、栄光の子役時代のプレッシャーを跳ね除けた“プロの意地”。大学同期の筆者が解説

『トウキョウソナタ』以後の試行錯誤

『トウキョウソナタ』DVD(メディアファクトリー)

『トウキョウソナタ』DVD(メディアファクトリー)

『トウキョウソナタ』以後の井之脇は、試行錯誤の連続であった。映画・テレビ問わず、話題作への出演を重ね、爪痕を残す。今年のTBSドラマ2作は、脇役ながら確かな存在感を発揮し、大きな成果物となった。  そんな彼が、満を持して初主演した映画『ミュジコフィリア』が11月18日(金)から全国公開された。『マエストロ!』などの音楽漫画で知られるさそうあきらによる同名漫画を原作にした本作は、天才ピアノ青年・篠原朔を主人公にユニークなキャラクターが集う芸術大学のキャンパスライフが描かれる。まさに日芸での日常を映画作品内で再現したような感覚だ。  音楽に対する複雑な過去を抱える朔が、音楽の不思議な力に引き寄せられ、現代音楽研究会に入部したことから物語は動き出していく。研究会でメキメキとピアノの才能を発揮し、現代音楽の虜になる朔だが、天才を天才に見えるように演じるこの役は、相当難役だったに違いない。  漫画内の2次元キャラクターを実写化の3次元で紛れもない天才的な人物として役作りし、アウトプット出来たのは、確かな実力を持つ井之脇の才能と試行錯誤の賜物だと改めて思った。

現代音楽の不思議な力が繋いだ12年間

 井之脇は、音楽映画に非常に縁のある俳優だ。『トウキョウソナタ』のラストで演奏する『月の光』は、左手を除いて本人が弾いている。『ミュジコフィリア』では、すべて自分の手で演奏することにこだわり、プロの意地を見せた。  興味深いのは、両作の音楽映画の少年と青年がともに現代音楽に関係していることである。『月の光』は、現代音楽の先駆者であるクロード・ドビュッシーが作曲した有名曲であり、『ミュジコフィリア』の主人公・朔は、現代音楽に目覚めることで天才を発揮していく。『トウキョウソナタ』の井之脇は12歳、『ミュジコフィリア』の撮影時は24歳。 『月の光』を独奏していた少年が、およそ12年の年月を経て、24歳で現代音楽に目覚める天才ピアノ青年を再演するという偶然性。それは、『トウキョウソナタ』以後の苦節の年月を物語りながら、現代音楽の不思議な力が繋いだ12年間だった。 『ミュジコフィリア』で井之脇は、俳優としても、表現者としても一層深みを増し、器を広げた。正真正銘の初主演映画作品の公開を大きな節目として、2022年はいったいどんな飛躍を遂げるのか。ただ静かに見守るばかりだ。 <文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修 俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
1
2
Cxense Recommend widget
あなたにおすすめ