井之脇海、栄光の子役時代のプレッシャーを跳ね除けた“プロの意地”。大学同期の筆者が解説
『トウキョウソナタ』以後の試行錯誤
現代音楽の不思議な力が繋いだ12年間
井之脇は、音楽映画に非常に縁のある俳優だ。『トウキョウソナタ』のラストで演奏する『月の光』は、左手を除いて本人が弾いている。『ミュジコフィリア』では、すべて自分の手で演奏することにこだわり、プロの意地を見せた。 興味深いのは、両作の音楽映画の少年と青年がともに現代音楽に関係していることである。『月の光』は、現代音楽の先駆者であるクロード・ドビュッシーが作曲した有名曲であり、『ミュジコフィリア』の主人公・朔は、現代音楽に目覚めることで天才を発揮していく。『トウキョウソナタ』の井之脇は12歳、『ミュジコフィリア』の撮影時は24歳。 『月の光』を独奏していた少年が、およそ12年の年月を経て、24歳で現代音楽に目覚める天才ピアノ青年を再演するという偶然性。それは、『トウキョウソナタ』以後の苦節の年月を物語りながら、現代音楽の不思議な力が繋いだ12年間だった。 『ミュジコフィリア』で井之脇は、俳優としても、表現者としても一層深みを増し、器を広げた。正真正銘の初主演映画作品の公開を大きな節目として、2022年はいったいどんな飛躍を遂げるのか。ただ静かに見守るばかりだ。 <文/加賀谷健>
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