フィギュア金のネイサン・チェン、選曲と音楽センスが天才的な理由
熱戦に沸いた北京オリンピック男子フィギュアスケート。羽生結弦選手の3連覇に期待が集まる中、2月10日、金メダルに輝いたのは、アメリカのネイサン・チェン選手でした。
日本では羽生選手のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)挑戦が話題を独占していますが、注目したいのはネイサン選手の選曲と振り付け。クラシックの有名曲やわかりやすくドラマチックな音楽を選ぶ選手が多い中で、エルトン・ジョンメドレーは異彩を放っていました(2月10日、シングルフリー)。
【画像をすべて見る】⇒画像をタップすると次の画像が見られます
しかも、原曲ではなく映画『Rocketman』や2018年リリースのトリビュートアルバムからのバージョンをコラージュ。モダンなコード進行やリズムパターンが、圧倒的にスマートでクールでした。
そんな音楽とマッチする振り付けは、壮大な優雅さとは対照的なミニマリズムの機能美。従来のフィギュアスケートの概念を変える驚きに満ちていました。
これまでにも、現代音楽の巨匠、フィリップ・グラスの曲で演技を披露してきたネイサン選手。プログラムにひとひねりを加える知性とユーモアは、いちアスリートの域を超えています。フィギュアスケートが単なるスポーツでも見世物でもなく、パフォーミングアートとなり得る競技であることを証明し続けてきたのですね。
それにしても、なぜここまで音楽を効果的に使えるのでしょうか? それは、ネイサン選手の探究心が為せる業なのかもしれません。
ショートプログラムの後、米紙『Wall Street Journal』電子版が、「Nathan Chen’s Yellow Brick Road to Gold」(2月8日配信「金メダルへとつづくネイサン・チェンのビクトリーロード」筆者註・見出しはエルトン・ジョンの「Goodbye Yellow Brick Road」をもじったもの)という記事を配信し、ネイサン選手と音楽の関係について書いていました。
あるとき振付師が送ってきたテープに入っていたフィリップ・グラスが気に入り、自らピアノを弾いてグラスの音楽を理解しようと試みるまでにハマったのだそう。そして、それこそが競技者として音楽とのつながりをより深める経験となったのです。
もともと12歳の頃までピアノを学んでいたとあって、自室の電子キーボードでショパンを弾くこともあるネイサン選手。彼が演奏する「幻想即興曲」の動画を見た、ピアニストでフィギュアスケーターの葉智文氏(Vincent Ip)は、ネイサン選手が他のスケーターにはない繊細な感性を持っていると語ります。
<ショパンならではの卓越した指先の動き。うねりを打つ楽曲の効果。さらには微妙なニュアンスに、細かなアルペジオや悲しみが爆発するメロディ>(前出WSJより、筆者訳)、ネイサン選手がこれらを見事に捉えていることを絶賛し、続けて分析します。
他の人とは違う、クールな選曲
ネイサン・チェンはピアノを弾ける!
1
2