「そして……その翌日のことです。彼にまた連絡をしようとしたら、インスタのアカウントがなくなっていたんです。それ以来、彼から連絡は途絶えました」
インスタでしかつながっていなかった彼。そのアカウントがなくなったことでケイコさんは悟った。結婚詐欺だったのだと。だけど、
彼女の心にあったのは、お金を騙し取られたことよりも、恋した相手があっというまに目の前から消えてしまったという喪失感。

だから、振込先から彼の居場所を辿って探そうとか、本当はどこでどんな仕事をしているのかとか、実家の酒屋とは実在するのかとか調べる気持ちにもなれなかった。そんなことをしても、彼は自分のところには戻ってこない。彼の居場所をつきとめたところで、彼が結婚詐欺だったとハッキリするだけで、かえって自分はむなしい気持ちになってしまう……そう思うと、結論を出さずにぼんやりとさせておきたい気持ちのほうが強かったのだ。
頭の中では、最初から彼は自分のお金が目的だったことくらいわかっていた。ただ、そんな彼を探し出してお金を返してくれと訴える元気も残っていなかった。そして彼女に残ったのは、夫と離婚をして、息子と二人でやりなおすという道だった。
「彼のインスタアカウントがなくなって1週間後のこと。家の貯金を不倫で使ってしまったと夫に告白しました。するとあの人……それでも私を怒らなかったんです。下を向いて声を押し殺して泣いていました……そして、もう別れるしかないなって、背中を向けました」

そんな離婚だったから、ケイコさんは息子と一緒に実家の富山に戻った。すでに専業主婦になっていたケイコさんは、息子とふたりの家賃と生活費を自分で払って暮らすことはムリ。実家しか頼るところがなかったのだ。
現在は、両親の年金とケイコさんのスーパーのパート代で暮らしている。
それに、性格のいい元夫は、不倫で使った300万円を返せと言わないばかりか、養育費を毎月きちんと振り込んでくれる。息子の誕生日や、小学校に入学するときには多めに振り込んでくれるし、電話やLINEもしている。