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『モービウス』ジャレッド・レトの吸血鬼にうっとり…過去の“異常な役作り”から読み解く

新たな吸血鬼俳優像

サブ2_トリミング_MORBIUS_Trailer_11 本作は、確かに吸血鬼映画なんだけれど、モービウス自体、科学技術によって吸血鬼的な超人性を手にした人間に変わりはない。  モービウスの人間性を象徴する場面がある。彼が船で傭兵たちの血を吸い尽くし、人間の姿に戻ると、それまで血の病によって痩せこけ衰弱していた肉体が嘘のように、たくましい姿に変化する。上着を脱ぎ捨て、あらわになった肉体美。船内に吹きでる水蒸気がまといつく官能的な瞬間。いくら血を吸っても青白いままの吸血鬼に対して、モービウスの顔色はすこぶる鮮やかになっているのだ。  モービウスが吸血鬼にメタモルフォーゼ(変身)するショッキングな恐怖より、新鮮な血によって健康的な褐色の肉体を得た逆メタモルフォーゼのほうが、驚きがある。『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年)でのトム・クルーズ、「トワイライト」シリーズ(2008~2012年)でのロバート・パティンソン、あるいは筆者が偏愛する吸血鬼映画の傑作『処女の生き血』(1974年)のウド・キアなどなど、吸血鬼イケメンの美しさは、もちろん肌白の美点にこそあるのだけれど、ジャレッド・レトの美しさが引き立つのは、やっぱり健康的な褐色の肌色なんじゃないだろうか。  ということで、レトは、人間らしさが逆に魅力的な新たな吸血鬼俳優像をイメージ付けたということに、どうもなりそうだ。

ジェレッド・レトの異常な役作り

 脆弱な身体からたくましく、完璧なプロポーションにメタモルフォーゼできるレトの役作りは凄いものだと思う。彼は、役柄への掘り下げを徹底する演技アプローチを重視する、いわゆる“メソッド俳優”のひとりだ。メソッドとは、1960年代のアメリカ映画界で、マーロン・ブランドやジェームス・ディーンを第一期生としたアクターズ・スタジオに由来する演技法のこと。最近のハリウッドでは、あまり露骨にメソッド演技を駆使する俳優が少なくなってきたように思うが、レトの異常さは筋金入りだ。  ジョン・レノン殺害犯として悪名高いチャップマンを演じた『チャプター27』(2007年)では、30キロの増量に挑み、チャップマンが犯行に及ぶ3日間の自閉的な狂気の世界を浮き上がらせた。それは、メソッド俳優の代表格ロバート・デ・ニーロがひとつの映画作品で驚異的な増減の振り幅を感じさせた『レイジング・ブル』(1980年)の熱演を彷彿とさせる。 『ダラス・バイヤーズクラブ』(2013年)では、HIVに感染しながらも力強く生きるトランスジェンダー役で、第86回アカデミー賞助演男優賞を受賞。そんな役者魂も、『スーサイド・スクワット』(2016年)でのジョーカー役までいくと、あまりに病的で、常軌を逸しているとしか思えなくなる。  確かに歴代ジョーカー俳優としては、もっともこの役柄を愛し、心ゆくまで戯れ尽くした感があって、ある意味爽快ではあった。でも、ジョーカー役が日常生活でも抜けきらず、意図的か、無意識かは別として、共演キャストの自宅に淫らなアイテムを送りつけたりする傍若無人さは、異常の極み。  レト君、レッドカーペットではあんなにイケメン・フェイスなのに、怪演スイッチが入ると訳分かんなくなるものなんだなと思う。最近でも、レディ・ガガが主演した『ハウス・オブ・グッチ』(2021年)でグッチ一族のでくの坊息子を、これまた増量と禿カツラ?で、イケメン感ゼロに仕上げてきて、誰が演じてるのか、ほんとうに分からなかった。
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調和のとれた新たなヴィラン作品
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【公開情報】
『モービウス』全国の映画館にて公開中
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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