
近づくクライマックス。このライブツアーのステージを意識して作ったという「Just the way you are」を爽やかに、ポップに歌い切った登坂が、「この曲の解釈、意味が、色々変化」と語り、満を持して歌うのが、「After the rain」(収録では、三代目JSBツインヴォーカルの今市隆二がコーラスで参加)だった。
セットリスト中唯一のバラード曲である「Afeter the rain」を聴いたとき、何か、登坂の音楽的な根源に触れたような気がした。登坂の音楽世界に改めて共振できたような感覚。非常に不思議な心地よさだった。ソフトでいながら、パワフルなサビの歌唱が、鮮やかにリスナーの心を整え、解き放つように飛翔させる。
「探して見つけた その答えはyou」と歌われると、モニターには、黄昏の空が流れ、画面下手に、サビを歌い上げる登坂の表情が重なる。「空を見て 気づいたんだ 世界は愛で溢れている」と結ばれるとき、一瞬、額の汗が滲んだのが、美しかった。後は言うまでもない。「僕の答えは、みなさんです。ファンのみなさんです」と、すこしだけ照れくさそうに微笑む登坂に対して、「臣君…」と、客席の誰もが、そう心の中で静かに呟くだけだった。

「After the rain」の熱唱のあと、会場中が一瞬だけれど、静寂に包まれた。アンコールとなった「Chapter3 UNDER THE MOOMLIGHT」では、底抜けに明るく、ポジティブな臣君の姿が、鮮明な輪郭で輝いていた。曲間には、ファイナル公演ということもあり、言葉を探し、噛み締めながら、ファンへの感謝を何度も口にした。
何気ない一言一言なのに、切実な感謝の気持ちが、愛をより滲ませる。ほんとうに愛情深い人なんだと思う。優れたアーティストである以前に、ひとりの人間としての誠実さに、筆者は思わず心を打たれた。
モノクロームの映像によってはじまったライブの最後には、エンドロールまでついていた。まるで映画のような本編に付随する「Chapter4」の映像では、「あなたは何者?」、「あなたはどこからきたの?」、「あなたはどこへ行くの?」と、何かを悟った登坂の精悍な表情に、根源的な3つの問いが重ねられる。この問いに対する答えを改めて問う必要はないだろう。この先、次なるコンセプチュアルな世界観から繰り出される新曲リリースを楽しみに待つファンが、かけがえのないの「you」であることに変わりはないのだから。
<セットリスト>
M01. ANSWER… SHADOW
M02. Can You See The Light
M03. Nobody Knows
M04. NAKED LOVE
M05. OVERDOSE
M06. BLUE SAPPHIRE
M07. Give up
M08. Colorblind
M09. SHINE
M10. You (Prod. SUGA of BTS)
M11. Starlight
M12. HEY
M13. DIAMOND SUNSET
M14. Just the way you are
M15. After the rain
Encore
M16. UNDER THE MOONLIGHT
M17. CHAIN BREAKER
M18. HEART of GOLD
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<取材・文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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