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あっ好き…「田中圭と大型犬」の組み合わせが幸せすぎる。映画『ハウ』の魅力

田中圭の「折り合いをつけるしかない」名演

© 2022「ハウ」製作委員会 だが、ある日ハウは突然姿を消してしまい、無情にも「ハウによく似た白い大型犬が事故死した」という情報も告げられる。実は偶然のアクシデントが重なり、本物のハウは青森まで運ばれてしまっていたのだ。ハウは青森から横浜、実に798キロにおよぶ道のりを目指すことになる。  重要なのは「ハウは生きている」という事実を主人公が「知らない」ことだろう。愛犬を失った彼は、結婚間近の恋人に捨てられた時よりもさらに絶望しているので、観客は「ハウはあなたのためにがんばって旅をしているんだよ!」と、その「もどかしい」気持ちも含めて、ハウおよび主人公を心から応援できるようになっているのだから。  その田中圭の演技がまた素晴らしい。いつまでも死んだ(と思い込んでいる)犬にしがみつくわけにはいけないと心の中ではわかっているが、簡単に吹っ切れるわけがない。職場でデリカシーに欠けた言葉をかけられたり、SNSで応援の声をもらったりもしているが、最終的には自分の中で折り合いをつけるしかない。そうした沈んだまま揺れている感情の機微も、田中圭は悲しみと苦しみを主体とした、微細な表情の変化によって表現していたのだ。

意外にシビアな「ツラい現実」が描かれるエピソード

© 2022「ハウ」製作委員会 そして、物語のメインに置かれているのは、ハウが長い旅の途中で出会う人々との交流のエピソード。そこには、東北大震災後に根強く残る問題、過疎化した地方都市のシャッター商店街、さらにはDV被害など、さまざまな社会問題も背景とした、切実な悩みが描かれている。  メインビジュアルのほんわかした印象と異なり、それぞれのエピソードが意外にシビアであり、時にははっきりと暴力も描かれることに賛否両論はあるかもしれない。だが、その「ツラい現実」をはっきりと描くことこそが、この『ハウ』でもっとも重要なことだとも言える。  人はどうしてもツラい現実に直面する、だけど、人のかけがえのないパートナーにもなり得る犬(あるいは誰かの行動)は、そのツラい現実にいる人を癒すことができるし、時には前向きな気持ちを後押ししてくれるかもしれない。それぞれのエピソードでのハウの行動は、普遍的な「現実にあり得る人生のきっかけ」だと思わせてくれるのだ。
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田中圭がいない時も、ずっと頭の片隅に置ける
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