菜緒さんは派遣会社に登録して、派遣社員として働くようになったそう。
「そうして環境も変わり、時間もある程度経って心の傷も癒えてきた頃に…今の会社で知り合ったK太さんからアプローチを受けて。思い切ってお付き合いをしてみることにしたんです。正直言うと、まだT之のことを忘れられないでいたのですが」
ですがK太さん(35歳・会社員)は優しい男性で、奈緒さんがこの恋愛にまだ100%乗り気でないのが伝わったのか「ゆっくりじっくりと仲良くなっていけたらいいと思っているから」と言ってくれました。
「あせらないで、いつも優しく両腕を広げて私のことを待っていてくれているような態度で接してくれるK太さんに、私もだんだんと心を開くようになっていったんです」
そんなある日、K太さんから「菜緒ちゃんが作ったお味噌汁が飲みたい」とリクエストされたそう。
「実はT之が亡くなったショックでできなくなったことがもう1つあって…それがお味噌汁を作ることだったんです」
いつも一緒に料理をする時には、必ずT之さんがお味噌汁を担当していました。
「給料日の後だと具だくさんの豚汁で、お金のない時はわかりやすくネギとかワカメとか具が1種類になっていました。T之のお味噌汁が大好きでしたね」
もう大丈夫だろうと、久しぶりに自分でお味噌汁を作ってみた菜緒さんでしたが…。
「やっぱり知らず知らずのうちにT之の味を追ってしまうんですよね。あの頃と同じ細粒出汁と味噌を使って作っても、なぜか同じ味にならなくて」