味噌と出汁(だし)の配分や濃さなど、試行錯誤を繰り返しましたがどうしてもT之さんの味にはならなかったそう。
「『もしかしたら思い出が美化されて、元の味が分からなくなってしまったのかも』とため息をつきながら、何となく近所にある個人経営のカレー屋さんに入ったんです」
その店内はレトロな良い雰囲気で、菜緒さんはポークカレーを注文しました。
「そしたらなぜかポークカレーにお味噌汁がついてきたんです。めずらしいなと思いながら一口飲んでみたら…あのT之の味そのものだったんですよ」

あまりの懐かしい味に、カレーに手をつける前に一気に飲み干してしまったそう。
「思わず厨房(ちゅうぼう)にいた30代ぐらいの男性店員さんに『このお味噌汁ってどうやって作っているんですか?』と聞いたら『何も特別なことのない普通の作り方だけど、仕上げに数滴お醤油をたらしていますね』と教えてくれました」

菜緒さんがカレーをかき込み、急いでお会計を済まそうとすると、なぜかその店員さんから「彼氏と仲良くね」と笑顔で言われたんだとか。
「あれ私、彼氏とケンカして落ち込んでいるような悲しい顔していたのかな?と不思議に思いました。ですが、その時はとにかくお味噌汁にお醤油の隠し味を試してみたかったので、走って帰りました」
さっそくお味噌汁作りに取りかかり、お醤油を数滴垂らして飲んでみると…まさにT之さんの味そのものになり、菜緒さんは感動しました。
「そうそう、これこれ!って感じで。T之は私が知らない間に隠し味なんておしゃれなことしていたんだなと、またセンチメンタルになってしまいましたね」