生活費も家事も夫がほぼ全負担…「妻の顔色だけをうかがう生活」を続けた理由
【ぼくたちの離婚 Vol.25 シュレーディンガーの幸せ 前編】
書籍化・コミック化も果たした人気ルポ連載「ぼくたちの離婚」。これまであまり語られてこなかった「男性側の視点から見た離婚」をライターの稲田豊史さんが取材しました。
※以下、稲田さんの寄稿。
近年、「夫源病」や「カサンドラ症候群」など、パートナーとまともにコミュニケーションがとれない、心を通わせることができない状況下で心身に不調をきたすケースへの注目が高まっている。今回話を聞いた園田圭一さん(仮名/39歳)は、8年に及び「妻の顔色だけをうかがう生活」を送っていた。しかし本人は、それが自身の心を蝕んでいることにまったく気づいていなかったという。
園田圭一さんは、大手企業の財務部に数年在籍したのち、退職して某エンタメ系ベンチャー企業の立ち上げにCFOとして参加。同社を軌道に乗せた立役者として、CEOから絶大な信頼を得ている人物だ。
筆者はそのCEOと以前から知り合いで、ある飲み会で園田さんを「とにかく仕事ができる男。抜け漏れというものがない」と紹介された。社交性に富んでいて話しやすく、映画、アニメ、マンガ、ゲームなどの知識が豊富。それらの文化的な意義や歴史にもかなり通じている。
園田さんは2010年、27歳のときに当時24歳の莉子さん(仮名)と結婚し、10年後の2020年に離婚した。子供はいない。
ふたりが知り合ったのは、コミケの会場。それぞれ別の友人と会場を訪れていたが、園田さんの友人と莉子さんの友人が知り合いだったことから交流が始まった。莉子さんが女性にしてはかなり珍しく、ある青年向けアニメに詳しかったため、同作の大ファンだった園田さんと意気投合したのだ。
「莉子は童顔・スレンダーのモデル体型で、少女っぽいフリルのついた服が好み。いかにもオタクからモテそうなオーラ全開でしたが、本人は社交性に乏しく人嫌いで、同性・異性ともに友達が少ない。過去に付き合った男性はいたものの、肉体関係までいったのは僕だけだと言っていました」(園田さん、以下同)
ふたりは交際をはじめて半年で婚約、知り合ってから1年後に入籍。都心区の高層マンションに引っ越し、しばらくは平穏な日々が過ぎていった。ところが、結婚から約2年後のある日――。
「家事の分担に関して、ささいな言い合いになったんです。莉子が掃除することになっている脱衣所が何週間も放置されていたので、余裕ないなら俺やっとくよと言ったら、私は仕事で疲れてるのよと怒りだして」
当時、莉子さんは定時で終わる事務仕事を短期間のうちに点々としていた。元来の人嫌いによってどの職場にも馴染めなかったからだ。月収は最高でも17万円。職場では常に神経をすり減らし、毎日ヘトヘトになって帰宅。もともと人より体力がなく、疲れやすい体質だったことも災いした。
園田さんのほうも、仕事のトラブル処理に伴う連日の深夜残業で、疲労とイライラが溜まっていた。「疲れてるのよ」と言う莉子さんに思わず言ってしまう。「じゃあ仕事を辞めたら?」。実際、園田さんの収入だけでも十分に生活はできたからだ。すると……。
「莉子がヒステリーを起こしました。泣いてわめきちらしながら、皿やコッブや茶碗を次々投げつけてきたんです。ガチャーン! とものすごい音を立てて目の前で食器が次々と割れ、錯乱した莉子が怒号を発してきました」
突如、園田さんを動悸とめまいが襲った。立ちくらみがして冷や汗も出てきた。たまらずトイレに駆け込み、嘔吐した。
「僕、物を壊す系の人が……本当にダメなんです」
コミケ会場で知り合った2人
皿やコップが飛んできた
