夫婦間のセックスは減っていった。
「
ヒステリーを起こした莉子に、性的な魅力を一切感じられなくなりました。泣きわめき、物を投げては壊すような人に興奮なんてするわけがない」
園田さんから誘うことは皆無となり、莉子さんからの誘いも園田さんは何かと理由をつけて断るようになった。

「当然、莉子は『私に女性としての魅力がなくなったの?』と不満げに言ってきました。まさか自分のヒステリーが原因だなんて彼女は思ってないし、僕も絶対に言わない。言えばまたヒステリーになりますから」
しかし、このまま拒否し続けていれば、いずれ莉子さんは不満を爆発させ、結局はヒステリーを起こす。園田さんは“薬の力”を借りた。
「いわゆるバイアグラ的な、勃起不全用の薬を飲みました。
飲んでもこの程度か、というくらいの効果でしたが。とにかく、数ヶ月に1度の“おつとめ”はそれで乗り切りました」
園田さんは、あらゆることが「莉子さんの望み通り」になるよう知恵を絞り、工夫を重ね、配慮を施した。その甲斐あって莉子さんのメンタルは安少しずつ安定していったが、その状態をキープするには日々の工夫や配慮をやめるわけにはいかない。園田さん自身もそれをよくわかっていた。
園田さんの会社のCEOの言葉「とにかく仕事ができる男」が思い出される。さぞかし完璧に、莉子さんの“介抱”を行っていたのだろう。抜けも漏れもない、完璧な仕事だ。
莉子さんの極端な姫気質について、園田さんは「彼女の不幸な生い立ちが影響している側面は無視できない」と言う。その詳細をここに記すことはできないが、ひとつだけ書けるとすれば、「莉子さんの母親もヒステリーで、物を投げて壊す人だった」ということだ。
結婚前に、ヒステリー気質の片鱗のようなものは発見できなかったのか。
「
いえ、まったく。友達がすごく少なかったことや、『人に興味がない』が口癖だったことは、ヒントだったのかもしれませんが……」
園田さんは、自分が莉子さんを甘やかしたせいで、より一層「言えば言っただけ、泣けば泣いただけ意見が通る」と莉子さんに思わせてしまったと振り返る。
「でも、僕が断固として莉子の要求を拒否したり、何か意見したり、交渉を試みたりすれば、絶対に揉める。揉めたら絶対にヒステリーになる。泣きわめき、暴れ、物を壊すでしょう。それだけは……絶対に、絶対に嫌でした」
そのためには、甘やかすしか方法がなかった。
「
莉子の人生を莉子の望み通りにするため、僕は自分の感情にふたをしていました」
しかし疑問は残る。なぜ早く莉子さんと離婚しなかったのか。離婚すればすぐに逃げられるではないか。そう聞くと、園田さんは不思議なことを口にした。
「
実は僕、それが異常な状態だということに気づいていなかったんですよ、8年間」
◇後編「
離婚に理由なく慰謝料750万円要求する妻…夫がすんなり支払った理由」に続く。
【ぼくたちの離婚 Vol.25 シュレーディンガーの幸せ 前編】
<文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>