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『エルピス』長澤まさみと眞栄田郷敦には“モデル”がいた。佐野Pに聞く傑作の舞台裏

自分の価値を決める基準を外に求めている限り、苦しいまま

――セクハラ、パワハラを受ける人も、わかりやすく「被害者」として描くのではなく、同時にほかの側面では加害者としての罪悪感も抱えています。そうした描き方にはどんな意図があったんでしょうか。 佐野:最初の依頼時から紆余曲折の末、あやさんに私が本当に興味のあるものをテーマにしたほうが良いと言われて、その時熱心に読んでいた、ある冤罪事件のルポを渡したんですね。そこであやさんが、実際に私たちが生きる社会に存在する冤罪事件のことを色々知って、その時の驚きを、エンターテイメントという間口の広いもので伝えたいという思いがまずありました。 あとは、最初に私が書いた企画書にあった「価値がないとされた人たちが、価値を自分の中に再発見していく」「自分の価値は自分で決める」「価値なきものとされた者の逆襲劇」みたいなコピーですね。 あやさんと台本を作るまでの対話の中で、「自分の価値を決める基準を外に求めている限り、苦しいままだよ」と言われたことがあるんです。私自身、大きな企業にいてドラマ作りという難しい仕事に携わる中で、「組織の中で認められなきゃいけない」みたいに、自分の価値を決めるのが他人になっていることを指摘されて。

負い目を持っている人たちの、再生の物語

佐野:私はあやさんとの対話の中で、そこから脱出する力を得たわけですが、そうした経験を、ドラマを通して伝えたいと思ったんです。そして、他者によって植え付けられた呪いや負い目を持っている人や、自分の過去を後悔していてそれを乗り越えたいと思っている人、といった登場人物ができていきました。 「冤罪」をテーマにするけれど、同時に人間讃歌の物語で、登場人物たちの再生の物語になるようにしたい、と。実は最初に、サスペンス要素は必要だけど、犯人が誰か、ということを楽しむミステリーである必要はないと思ったんです。考察を楽しむドラマはあっていいけど、わざわざ渡辺あやさんという、人間を描くことに長けた人に書いてもらうなら、事件じゃなく、人間を書いてほしいという話をして、ドラマのトーンが決まっていきました。 ==========
エルピス5

恵那の恋人・斎藤(鈴木亮平)は毎回話題に(C)カンテレ

登場人物の中でも、女性視聴者を身悶えさせているのが、鈴木亮平演じるエリート記者・斎藤。後編では、セクシーでムカつく斎藤が、どうやって生まれたのかを聞きました。 【画像をすべて見る】⇒画像をタップすると次の画像が見られます 【後編】⇒『エルピス』で鈴木亮平演じる“セクシーでムカつく男”。その誕生秘話を佐野Pに聞いた <文/田幸和歌子>
田幸和歌子
ライター。特にドラマに詳しく、著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』など。Twitter:@takowakatendon
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